人の身体は生まれ月の後の温度に慣らされている。かもしれない。




 だから政宗は年を通して今の時期が一番苦手だ。
 政宗が生まれた葉月の三日まであと少し。それを越えると奥州の暑さは下りを向かえる。
 政宗は今の時期が一番苦手だ。
 喉を圧迫する重たい熱気。
 苦しくて、息をするのも侭ならない。
 うなじに張り付く髪を頭の高い部分で結い上げて、薄手の衣に袖を通して。
 それでも汗は髪の生え際から、背筋に伝い落ち、顎に垂れて、ぽたりと落ちる――それを、白い、手ぬぐいが押さえた。
 ひんやりと冷たい、井戸水を絞った白い布。押さえる黒い、黒い指。
 冷たい黒鉄の爪。
(うなじの汗も吸い取った、熱の無い何か)
 ぐい、と汗をふき取る動きのままに仰向けば、冷めた目の色と、赤いくせに熱くも無い褪めた橙毛が目に入った。
――影に熱は無いと言う。
 目を細め、身を任すようにそのまま後ろに倒れこもうとすると、「え、ちょっと、」などと焦った声音。
 両肩を支えられて止められたのを、不満げに、政宗の左目は後ろに流される。
 こう見えて埃まみれなんだから、と影は困ったような眉で器用に笑う。痩躯の纏う木の葉斑をジロリと睥睨して、水藍の細身はずるずると畳に滑り落ちた。
「…暑い」
 そこまで?と、布を拾って政宗の額に当てる、背を日に晒した男の顔は見えない。
 橙も木の葉の緑も、影に染まるのが、涼しげに見えた。
――どこまでも、熱を吸い取る。
 黒い爪持つその手を取って、指の背を首筋に当てた。
「Cold,」
 満足げな声に響く、筋の動きに戸惑うように、指は折られて、伸ばされて。
「首に体の熱が集まるから」
「Yes?」
「首には、血と気の流れが集まってるから――
 するりと裏返された指。
 クッ、と、爪が立てられる。

 影には顔が無い。
 
 瞬きの間、呼吸が止まった。

 遠のいていた蝉の声が、先刻より大きく聞こえる。
 左手を目の上にかぶせれば、影も見えない。
「ああ、あとさ」
 つまらなさ気な、呑気な声。
「そういう奇麗なうなじとか、晒すもんじゃないよおひいさまが」
 熱ない声。
「莫迦じゃねェの」
「わー冷たい」
 肩口に残る小さな跡と、首筋に残る指の痕と。
 熱奪われた後の紅さ。
(言われなくても隠すしかねーだろ)

「あー…熱い…」
「本当にね」

 喉は少し、楽になった、気がした。





















 実はこの文章の趣旨はポニーテイル萌えでした。
『どなたかポニーテール結い上げ中の筆頭描いてくださいませんか』
 とか呟いてました。そしたら。
描いてくださった方が…!(→treasure)




07/09/12 改稿・掲載
初出:memo(07/08/12)