≫その後





 俺はね。

 yes?

 俺は月草の青を見ると……手折ってしまいたくなるんだよ。

 花も盛りを摘み取って、自分だけのものに。どろりと影の底を潜ませた声に、竜は気づいただろうか。

 つきくさの…ころもぞそむる、か。

 呟く声は楽しげだ。佐助の背中を膝に乗せて見下ろす左目が、無邪気にたわむ。
 独眼竜の目は上り初めに似た金色である。月そのものなのだと言われたらうっかり信じてしまいそうだ。
 空を三日月ごとおろして重ねたような、青い戦装束によく似合う。

 月草で染めるの?

 Ah?

 あんたの青い陣羽織だよ。

 まさか。

 竜はのどの奥で笑う。声は佐助の額のあたりに落ちる。

 そうか…月草の、花のBlueに似てるな。

 似てますよ。でなきゃ何で。

 何で草など摘むものか。と。わずか、ため息にひそめた本音。
 けれど、人の心に疎いようで勘のするどい独眼竜は、はたと目を見開いた。切れ味鋭い左目の中、真円を描く金の瞳。ひとつきりの満月。
 なんだかいとけなく見えて、黒い爪をのばして、忍びは何気なく笑う。
 目をえぐるかに近い烏の爪に、竜は瞬きもできずに、サア…と顔を赤く染めた。

 摘んじゃいたいな。

 もう一度言ってみる。

 ゴン、と音がして、気がつけば忍びは冷たい板の間に放り出されていた。
















10/05/28 掲載
初出:memo(2010/04/19)