この、ひどく浮かれた顔の男は、名を猿飛佐助という。
 迷彩柄のヘアバンドで赤毛をかきあげた、一見すると派手な見た目だ。それをへらへらした笑顔に柳のようなひょろりとした立ち姿で、ゆるい雰囲気に持ち込んでいる。持ち込んでるなあ、と元親は思っているわけである。実のところ佐助は、なかなかにキツイ性格なのだ。
――本日のこれは、どうやら本気で浮かれているらしいのだが。
「なんか迷子になった双子の弟さんを探してるんだって〜でも正直養子にしたいくらい可愛いんだけどどう思う?」
 浮かれている原因は、腕の中のそれに違いなかった。
「はーなーせー!」
 佐助の骨ばった腕の中でじたばたしている、政宗に似た顔の黒兜の人形。
――と言うか、その大きさからして明らかに。
(こいつ関係だろうがよ)
 元親は、机の上に陣取った、ふとんの妖精モトナリに目を向けた。向けた、つもりだった。
 モトナリは姿を消していた。
「おい、あいつは」
「焼 け 焦 げ よ ! ! 」
 代わりに緑色の塊が、佐助の顔面に華麗なドロップキックを決めていた。
――うしろから見ると、心底ただの巨大オクラだ。
 などと思っている場合ではない。
 顔面にふとんの妖精さんの全体重(赤ちゃん程度の体重+オクラ数キログラム)をかけられて、佐助の痩躯はうしろに反り返り、そのまま見事に倒れこむ。
 ゴーン、と派手な音がした。
「Hey,頭はよしてやれ」
 馬鹿が酷くなる。
 頬杖をついたまま冷たく言ったのは、佐助がホールドしたまま放さない政宗人形ではなく、伊達政宗本人であった。
――ちなみに、と言うか今まで意図的に目をそらしていたのだが、猿飛佐助は伊達政宗の彼氏である。
 何事につけ大らかと定評のある元親兄貴にとって、男同士がどうこうというのは特に気になる点ではない。
 ただ自分の親友が、また別のそこそこつきあいのある友達と不純同性交遊したり痴話げんかしたりしているというのは――何だかしょっぱい。これはもう体験してもらわなければ分からないしょっぱさである。
「そうだぜモトナリ!こいつは仮にも俺をここまで連れてきてくれたし、Break fastも食わせてくれたんだっ」
 交錯する感情に目頭を押さえた元親をよそに、聞きなれたハスキーヴォイスで叫んだのは、どうやら佐助が抱えて放さない人形の方であるらしい。
「甘い…信玄餅より甘い。それこそ人間どもの卑劣な罠ぞ」
 油断させてパクリ、背中からバッサリなのだ。
「…いや、こんなちっちゃい子に下心なんか持ちませんけど…」
 佐助がうめくようにつぶやく。
「丈夫だなあ、おい」
 ちっちゃくない方の政宗はピューウと口笛を吹く。
 元親はモトナリと、小さい政宗を見比べて、とにもかくにも事態に進展があったことを確認した。
「ま、落ち着けよモトナリ」
 双子の弟も見つかったみてえだし。
「うん、よかったねマサムネちゃん」
 双子の弟さんが見つかって。
(ん?)
――何かおかしい。
 モトナリは佐助に、マサムネは元親を睨みつけ、互いを指さして。
「「弟はあっちだ!ぞ!」」
 と、叫んだ。




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