「つまり、喧嘩の原因はそれかい?」
 相変わらず政宗は冷静だ。
 これが政宗の言うCoolというものである、かと思いきや単に興味津々なだけで、彼が多用する『Cool!』は日本語訳するならば『超かっけー!』という程度の意味なのだそうだ。
 つまり、ここで小さい政宗ことマサムネが、
「おっと、俺としたことがついむきになっちまったぜ。Coolじゃねえな」
 と言うのは『かっこわりぃとこ見せちまったな』というニュアンスなのだった。
――それにしても、政宗によく似ている。
 兜を脱いだらつむじの位置まで同じなのではなかろうか。
 マサムネはその五月人形のような黒兜の三日月を揺らして、胡坐をかく佐助の横に仁王立ちした。
「モトナリ、お前どうしてこんなところにいるんだ?」
 佐助の膝をはさんだ対岸で、モトナリもすっとまっすぐに立っている。
「何を言うマサムネ、貴様が城を飛び出したのであろうが」
「Oh,俺はすぐ戻ったんだぜ?そしたらお前がいなかったから、探しに来たんだ」
「何と…」
「こいつの家の押入れが一番日輪くさかったんでな」
 ぴっと親指でさされて、佐助はへらっと笑った。
――そう言えば、佐助はオカンという第二の名を持つほどマメな一面があるのだった。
「ああ、それで捕獲されたってえわけだ」
「チカちゃん、保護って言って」
「まあ何だ、細けえことはさておいて、どっちもお互いを探してたんだろ?」
 元親は小さなふたりを上から覗きこむ。
「無事見つかったってことで、うちに帰ったらどうだ」
 にかっと笑うと、モトナリは冷たく鼻を鳴らし、マサムネは瞬きして元親からモトナリに目を向けた。
「Ah,そうだな。意地張っても仕方がねえ」
「…む」
 モトナリの筆で引いたような眉がわずかに動く。
 これが元親の幼馴染なら、仲直りできる兆候だ。
「……モトナリ、」
「うむ」


「枕は低反発のにしていいよな?」
「だが断る」


 瞬間、マサムネの両手に長い爪が三本ずつ出現し、モトナリの手からは幾筋もの帯紐が伸び鞭のようにしなる。
 それが恐るべき凶器であるという事実は両者の目の光から察せられ、ついで元親と佐助の身を持って立証されるのだった。



 暴れだしたふとんの妖精さんツインズを親友と恋人に託して、政宗は教室を抜け出した。
 登校してきたクラスメイトが教室を遠巻きに見守っている。
 と言うのも、中での騒ぎに気づいているためであろうが――何よりその戸のそばで、湿度も凍りそうな絶対零度の空気をまとう、生徒会長毛利元就が睨みをきかせているのが原因であった。
「よお、進学クラスのKingがこんなところで何してやがる?」
 政宗はその冷え切った領域に易々と踏み入って、嫌味でもなくニイと笑みを浮かべる。
「…家政科B組には騒ぎを呼び込む馬鹿と、騒ぎを大きくする愚か者がそろっているのでな」
 壁に軽く寄りかかり、元就は文庫本の横文字から目も上げない。
「Wow,生徒カイチョーも楽じゃねぇなあ」
「うむ。権力は裏で握るに限る」
 淡いため息を本で隠す元就に、政宗はクツクツと笑った。
 その声にようやく、ちらり、と元就の目が向く。
――背丈が同じほどなので、目と目はごく近い。
「…双子などと申していたが」
 色素の薄さか、白い肌に映える黒髪は、元就の方が少し茶色に近く癖がない。
「Ah,聞いてたか」
 切れ長の目は、政宗の方がつり上がって猫めいていた。
――貴様、奴に明かしたか?」
「No,元親も知らねえだろ」
「ではあの動く人形どもは、何の罠だ」
「Trapっつーか…」
 あいつらに、そういう裏があると思えねえんだが。
 政宗が親指でさす教室の中から、机が飛び交うような轟音がとどろく。
「マサムネちゃん、怪我するから、怪我ー!!」
「WAR DANCE!!」
「兵など所詮捨て駒よ!」
「俺様あんたの兵じゃないからね!?」
 佐助の悲鳴と、自分たちによく似た声ふたつ、そして。
「だああ、てめえら!いいかげんにしやがれ!!」
 長曾我部元親の叫び声にゴーンと何かが、おそらく元親の石頭にぶつかる音が重なって。
「…馬鹿が酷くなるな」
 元就はフン、と小馬鹿にしたような――誰かとよく似た顔で、笑った。







   *就寝*