(お、そうだ)
 見つめあう、というよりお互い珍獣を観察するような目で向かい合うモトナリと政宗を見て、元親は考えた。
 政宗ならば、この家政科クラスで元親ともっとも馬が合い、ちょっとやそっとの非常識にはびくともしない男――元就いわく「“非常識”が三周して明後日のほうにコースを間違えた男」であれば、ふとんの国からやってきたふとんの妖精さんの話も、真面目に聞いてくれるやもしれない。
 何しろ政宗の懐の深さときたら――
 回想に入ろうとした元親の右目に、政宗が手にする刺繍途中のタオルが映った。
“佐助之阿呆”
 の、“阿”の右下の撥ねを今まさに仕上げようとしている。
――見事な毛筆書体の再現である。
 ではなくて。
「あの馬鹿、今朝俺のこと3分も待たせといてこんなメールよこしやがったんだ」
 政宗はぱちんと深緑の糸を切ると、片手で携帯の画面を開いてみせた。
『ごめん、用事が出来たから先行ってて〜』
 情けない絵文字が五つほどついている。泣き顔と土下座する猫と、汗・汗・汗。
 元親は携帯電話を持っていないので、これがどの程度真摯な謝罪なのかは計りかねた。
――何だかものすごくふざけているようにも、この上なく低姿勢のようにも見える。
「…で、お前は怒ってんのか」
 Yes,of course!と答えながら、政宗はタオルに針を刺し片付け始めた。
――伊達政宗という男は、大局的には懐が深いが、細かい点では気分しだいの好き嫌いだけがものをいうのだ。
 ぷんすか怒っている政宗の携帯の画面を、背伸びして覗き込むものがいる。
「愚劣な…」
 筆で書いたような眉を寄せ、つぶやく声。
「我の国であれば刑法第一条で万年布団の刑に処せられるぞ」
 さきほどから随分と大人しい、小さなモトナリであった。
「……Hey,元親。オクラ人形がしゃべった」
 呆気にとられたように呟いたのは政宗だ。
「オクラ人形ではない。我はモトナリ、ふとんの妖精である」
 モトナリが静かに名乗る。
――あれ、態度違うんじゃね?
 紳士的ですらある口調に、元親は銀毛をかいた。
「Wow,言われてみりゃあ元就によく似てやがる」
 政宗はすっかり関心を奪われたように、モトナリに向き直る。
 これが元親の認める、政宗の懐の深さというものである。
 あるいはただの興味本位である。
「ふとんの妖精ってのは何だ?設定か?」
「ふとんの妖精とは日輪と月光の守護を受けしふとんを司る妖精だ」
 昼は日輪の光でふっくら、夜は安眠なのだ。
 へー。へー。
 と、政宗と元親の声が重なった。
「で?そのFairy of beddingは何しにうちの学校に来たんだい?」
「うむ。我は双子の弟を探しているのだ」
 双子の、と聞いた政宗の左目が、元親を見る。
「いや、元就じゃねえんだと」
「…そうか。まあ、世の中ドッペルゲンガーは三人いるって言うしな」
「ああ、そうだなぁ」
 うんうんとうなずいて、ん?と元親は顎に手を当てた。
――ドッペル何とかって見たら死ぬやつじゃなかったか?
 そんなものが三体もうろついていたら困るんじゃないだろうか。
 そんな元親の疑問が発せられることはなかった。
 なぜならその時。
「見て見て伊達ちゃん!今朝うちの押入れ開いたらこんっっっな可愛い子が!!」
 すぱあん!と小気味のよい音で開いた教室の戸から、オレンジがかった赤毛の男が飛び込んで来たのである。
 そしてその手の中では、モトナリと同じ大きさの、青い羽織に黒兜、やけに大きな三日月を頭につけた――
「放せ!Put off!頬ずりするな!!」
 伊達政宗によく似た顔の何かが、暴れていたのだった。




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