事実から言えば元就はふとんの妖精さんの弟ではなかったのだから、ショックがおさまる前に話したところで、丸焦げにされたに違いない。
――でも、だってよう、こんなに似てるのに。
 おかしな緑づくめではあるが、元就と同じ――日本人形のような顔。
 ううむ、と唸りながら両手でささげ持つようにして観察する。
「我の弟はあのような頭身ではないぞ」
 頭から制服から煤だらけの元親を侮蔑するように眺め、モトナリはむっつりと答えた。
――先に言え、先に。
「ってこたぁ、弟もお人形さんサイズか」
 元から静かなモトナリの声(声も元就のまんまだ)に比べて、元親の声はしゃがれた風ではあるが大きく、廊下によく響く。
 ひとつ先の教室に入ろうとした幸村が振り向き、何とも言いがたい沈痛な視線を寄こしたのがいい証拠である。
 真田幸村は普通科で、家政科の元親とはクラスが違う――だがまあ、色々と縁があってよくつるむ連中のひとりだ。
 夏の白いシャツに、茶色い短めのぼさぼさ頭から一束伸びた、尾っぽのような髪と、赤鉢巻の端が揺れている。
 まだまだ少年風な顔を、生真面目にきりりと引きしめた、その表情はこう語る。
『武士の情け、それがしは何も見てござらん』
――“昔かたぎ”が三周して明後日のほうにコースを間違えたような、面白い男である。
 その幸村との縁の中でも最大の由縁が、元親を見るなりピューウと口笛を吹いた。
「Morning,朝からCoolじゃねぇか」
 窓際の机に裁縫道具を広げ、ニヤリと笑う薄い唇に牙をのぞかせる。
 黒い前髪と黒っぽい皮の眼帯で隠しているのは、元親とは逆の右目。左目は鋭くつりあがって笑みにたわんでいた。
――顔立ちの端整さは元就とも並ぶほどなのに、とかく曲者めいた顔をする男だ。
 名を、伊達政宗。
 元親の親友と書いてダチと読む、独眼竜である。
「元就にやられたか?まさか真田幸村か?」
「元就だ」
 やっぱりなあ、と意地悪く笑う政宗の後ろの席にガタガタと腰掛けて、元親はため息をついた。
 まさか、の場合政宗は元親の仇と称して、幸村に果たし状を送るに違いない。
 政宗と幸村はライバルである。何のライバルかと言えば、異種格闘技と言うかルール無用得物上等のタイマンと言うか、場合によってはオセロだったり早食いだったり、勝負でありさえすれば何でもかまわない、という気概だけを元親は理解している。
 こんな早朝の人気のない教室に政宗がいるのも、朝から幸村と果し合いをしていたからに違いない。
 ちなみに果たし状の送付方法は、携帯メールだ。
――仲のいい連中である。
 そして、赤と青のように、正反対でもあった。
「Ah?…面白ぇもん作ったなぁ」
 モトナリを見た第一声である。
 ふとんの妖精さんは、元親の机にちょこん、――という擬態語は大きさの割りに似合わない、悠々とした態度で正座していた。
「……」
 沈黙。
 じっと政宗を見上げる、人形のような目。
――ってか、いつの間に俺の机に陣取ってやがったんだ。




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