そんなことより先に考えるべきことがあった。
「焼け焦げよ!」
 朝から理不尽な焼身命令と襟足への急所攻撃。
 すなわち、この幼馴染の苛烈な性質に対処する方法というものである。
「俺何もしてねェよ!!?」
 ついでに言えば一言もしゃべってすらいなかった。
 自転車置き場に愛車を止めて、前籠の荷物を小脇に抱え――ようとすれば、殺傷力の高そうな冷たい視線が元親の首元を刺すので、捧げ持つようにして校舎に入った瞬間である。
「黙れこのお針子が。テディベアに飽き足らずそのような人形を作って何とするつもりだ」
 元親の胸の辺りに、元親の手の中の人形じみた自称妖精のモトナリさん、と同じ顔があった。
 生徒会長の毛利元就様である。
――まあ確かに、自分と同じ顔の人形を作られるのも学校に持ってこられるのも、あまり愉快でもないかもしれない。
 元親は思った。
 これが逆に自分ならどうかと言えば、おそらく兄貴はこんな愉快なことは無いとばかりに大笑いしてそいつを突いたりしただろう。
――他人を自分の尺度で計っては致命的な結果になる。
 それを教えてくれたのも、目の前の幼馴染であった。
 例えば今日で曇りと雨が三日続いたから、日輪を敬愛する元就はすこぶる機嫌が悪い。これを心得なければそれこそ命に障る結果が待っているのである。
 だがしかし、目下の問題はそこではない。
「いや、これ人形じゃねェんだよ、ほれ」
 元親は手の中の緑の服のそいつを元就の目線に上げた。
「……」
 モトナリは微動だにしない。
 元就の中では何らかの結論が一瞬にして導き出されたようだった。
「散れ!!」
 制作者もろとも灰となって散るがいい!
 口にせずとも彼の攻撃はそう物語っていた。
「人形じゃねェってのに!ほれ!お前も何とか言え!」
 元親は必死に手の中の自称妖精さんを揺さぶる。元就はやると言ったらヤる男だ。
 モトナリは――決して元親を見殺しにはしなかった。
「…散れ」
 むしろこの手で灰にしてやりたい、という声音と青白い顔。
 今のシャッフルで乗り物酔いしたようだ。乗り物イコール特殊車両・ザ・元親であることは語るべくもない。
 元就は人形の表情と声に、「何ということだ」とばかり、わずかに眉を動かした。
――分かってくれたか。
 その眉の動きを正確に読み取れたがために、元親は胸をなでおろし。
「なあ元就、落ち着いて聞け」
「……」
「こいつ、お前の双子の兄貴じゃねえか?」
 後に彼は、『相手の気持ちを考え、ショックがおさまるのを待って話すべきだった』と、述懐する。




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