毛利元就は元親の通う学校の生徒会長で、元親の幼馴染だ。得意分野は辛口で冷淡な批評である。

 モトナリはふとんの妖精であるという。

 ふとんの妖精モトナリが言うには、彼には双子の弟がいる。
 モトナリと弟はふとんの国のふとんの城のふとんの床に一枚のふとんを敷いて一緒に寝ている。
 眠る事が彼らの仕事であり、使命なのである。
 が、昨日喧嘩をしてしまい双子の弟が城を飛び出し、迷子になってしまったのだ。
 モトナリと弟は人間界の押入れを自由に行き来する事が出来る。
 ゆえに弟はこの世界のどこかの押入れにいるはずである。
「何で喧嘩なんかしたんだ?」
 元親の問いかけに、モトナリは秀麗な顔を憂いに染めた。
「我は枕は蕎麦殻に限るというのに…奴は低反発クッションなるものを使いたがるのだ」
 そうかい。と元親は頷いた。
 呆れた風も同情した風もない。
 普段は古風な考え方でもって「さすが兄貴!」と慕われる、昔気質な元親であるが、それは飽くまでも普通の人間の普通の生活の話である。
――自分の知らない世界の生き物には当然自分の知らない道理があるもんだ。
 故に、この時点でモトナリは押入れの上段の縁に正座、元親は押入れの前に正座という位置が確定していることにも異議は無い。
「あーっとな、俺、お前の双子の弟、知ってるかもしんねえ」
「それは真か!?」
 モトナリが押入れの上段から身を乗り出し、あわや落ちそうに見えるのを元親は抱え上げた。
 そうしてモトナリを自転車の前かごに入れて、もとい乗っていただいて、とりあえず登校することに決めたのだった。
 水溜りはあるが雨は止んで、このまま昼には晴れるというラジオの予報だ。
 モトナリはかごの中でもきちんと正座している。
 黙っていれば本当に人形だ。
 荷物用の紐をかけようとしたらまた叩かれた。
 仕方が無いのでせいぜい揺らさないようにと、元親は自転車を出した。
「とにかく、独眼竜にでも相談してやるよ…」
 独眼竜はあだ名、元親の親友と書いてダチと読む、クラスメイトの伊達政宗だ。――そう言えばあいつも低反発枕を買ったとか言ってやがったなぁ、これで教室の机でも安眠だぜ!とかなんとか。
 関係のないことをつらつらと思い出すのは半ば現実逃避だ。
 元親は愛車である木騎三号の、いつもより重いペダルを懸命にこいだ。
――自分の幼馴染が、この別世界の生き物の肉親だったらどうしようかと考えながら。




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