長曾我部元親の回答






――俺の目から見て?
 そうだな、ありゃあ……おっかねえ餓鬼だな。
 あ?政宗じゃねえよ、サスケ。5A式。まあ政宗もおっかねえとこはあるけどよ。


 獅子のたてがみのように銀髪をひるがえらせた下、左目には紫の視力補助帯。
 BASARAタワーの機械工学部門所属、二足歩行機構の開発者である長曾我部元親博士は、その紫の眼帯の端を指で掻いた。


 最初は、政宗が面白ぇモン作りやがった――ってくらいに思ってた。
 確かに二足歩行の器はこの俺が作ってやったぜ?他のドールと比べても一、二を争う出来で……だがあれだけ政宗の協力があったんだ、有機素材の脚って意味じゃほとんど共同開発よ。
 普通のドールに使う奴と仕組みは大差ない、ってのはまあ大雑把に言やあ事実だが――5A式の脚はなにしろ、素材が違う。一口に金属骨格たぁ呼ぶが、カルシウム繊維を使ってるぶん、かたどるのが難しくてな。それを背骨と骨盤とその下と、人間だったら赤ん坊から自然にバランスとって成長するその形を想定して、0から構成するだろ?筋肉は俺の指定で政宗が作って、上半身と繋がる神経系統も政宗任せ。人工知能に教え込む歩行その他のアルゴリズムはサナダ博士が開発初期にしっかり構成してて、んであとは俺が骨組に全部神経通して筋肉と関節片っ端からつないでこう、ガーッと形にして、調整調整調整。ドールの配線やら義足の神経交感とは勝手が違ってまいったぜ。特に関節部の軟体セラミッククッションは網の隙間に細胞増殖させる方式で、こいつは有機体ならでは、医療棟ならともかくオール人工の義足には初めての試みだ。この辺の分野外、特に骨格用の素材の扱いは政宗とふたりであーでもないこーでもないぎゃんぎゃん言いながら、まあ出来てみれば何とかなったな。
 ドールの脚なら完璧に金属でいいし、人間で言う筋肉部分も誤魔化しがきく。だが5A式の場合は体の大部分が有機体で――表層なんか完璧に培養細胞使ってるだろ。骨全部チタン66合金って手もあったんだが、医療棟で作ってるカルシウム繊維の方がなんつーか……なんだっけか、体液中の無機質のバランスがどーのこーので、いいんだと。
 そんな苦労話知ったこっちゃねぇって?おいおい、これが重要なんだよ。
 サスケと、5A式と初めて会ったのは、AIがあの体に移植された後だった。
 『よく出来た』、じゃ足りねえな。政宗の傑作だ。感動したぜ。
 あんた、あいつが歩いてるとこ見たことあるかい?単に二本足で歩ける、転んでも起き上がれる――なんてもんじゃねえ。立って、姿勢を保つ、歩き出す体の揺れ、そこまで完璧に人間の動きだ。
 それでも、……。
――…ああ、そうだ。そうだよ。
 すげえよく出来た、“人形”だと思った。
 元就が作ってやったとかいう目が、きれいに開いたまぶたの下にあって、何つーかな。
 整いすぎてんだ、目とか口の形。どこにも歪みがねえ。無表情なんじゃない、笑ったり喋ったりしてもそうだった。
 だが、その時は別に疑問もなくてな。
――何せ、政宗がそりゃもう嬉しそうに、すげーだろ!って顔してやがんだから。
 5A式は“よく出来た人形”で十分、いや、事実それ以上の出来だ。政宗が『まだまだこれからだけどな』って言うのは、また次を作るんだって意味だとばっかり思ってた。
 それが一昨年の七月。
 それから、政宗が5A式を連れて歩いてるのを何度か見かけたが、特に変わったところもなかった。
 『おう、調子はどうだ』って言ってやれば素直に頷いて、あの声で『はい、問題ありません』なんてな……。
 …何か寒イボたってきた。



 問題が起こったのは年明けだ。ちょうど一年前。あいつら、まだタワーにいたんだけどよ。
――サスケのやつ、熱出してな。
 ただの風邪とは違う。
 関節が炎症を起こしたんだ。
 ああ、関節だよ。全身の。――背骨から足先までは、俺が組み立てた部分だ。
 原因は不明。
 セラミッククッションに周りの細胞が合わなかったんじゃねえかっってのは随分懸念したな。
 軟体セラミック自体は医療塔でも使われてる素材だ、本来そう問題が起きるもんでもねえ。ただし、5A式の体は作り物。どうしたって普通の生き物より、脆かったり、均衡の危うい部分は多いんだと。
――あ?俺だってな、鉄骨と歯車より生きもんのが強いこともあるってことくらい、分かるぜ?むしろ機械ってやつは人間より繊細なんだな。うんうん。
 おお、そうそう、機械の話じゃなかった。
 政宗から携帯コールがあって、飛んでいったら――あいつの研究室じゃない、寝室だ。真田と北条の爺さんがいた。
 5A式はベッドに寝かせてあって…。
 酷ぇことになってたよ。
 体中ガクガク震えてて、悪寒のせいだけじゃなかったんだろうな、まるで――全身の骨が勝手に暴れて、バラバラになるんじゃないかって風に見えた。
 オレンジの、ほれ、あの派手な髪がな、濡れて張り付いて――汗かくんだよ、あいつは。
 投薬とか、炎症部分を冷やすとか、そういうことはもう終わっててな。
 『何とかしてやれねえか』って、そう言う政宗の方が絞り出したみてえな声だ。
 だが、散々相談して、とにかく手術なんかしたってどうにもならねえって結論よ。俺が出来ることはなくて、真田は、いざとなったら人工知能をサルベージする準備だけはしてた。もちろん最後の手段だろう。
――実を言うと俺は、そうなるんじゃねえかって思ってた。
 5A式の体はもう駄目で、これは失敗だから、作り直すしかねえってな。
 だってよ、ありゃあ……まるでもう不具合起こした機械人形だったよ。
 背骨が反り返って、手足が好き勝手にガタガタ動いてて。
 ひんむいた目ン玉がギョロギョロ回って、元就が作った、ガラス玉みてぇなあの目がだぜ?
 そのうち、うめき声が聞こえてきた。
 言葉にもならねえような声だ。
 なのに、政宗が、パッと振り向いてな。
 あいつの名前を呼んで、『サスケ、』だ。政宗が他の呼び方したとこなんか見たことねえよ。
 サスケは、首と目を政宗の方に向けて、無理に体に言うこと聞かせたみてえにな。額の絞ったタオルが目の辺りに落ちて、こう、左目が隠れて、右目は影ができた中でギラギラ光ってた。
――ゾッとしたぜ。今思い出せばおっかねえばかりじゃねえが、あの時は。
 震えながら、腕も伸ばした。
 腕の先でガクガクいってる指、冷却帯が一本一本についてる指を、政宗が――あいつは怖いなんて欠片も思わなかったんだろう、両手で包んで、『大丈夫だ』って呟いたんだ。
『大丈夫、大丈夫…』
 くりかえし、言い聞かせるみてえによ。
 サスケの口が震えて、またうめいた。
 政宗はベッドの横に座りこんで、その後はずっとそうしてた。北条の爺さんには帰ってもらってよ。
 俺は――正直、政宗が心配で、離れられなかったよ。真田も半分はそうだったんだろ。
 二日目の明け方くらいには、5A式の震えは、普通の震え程度におさまってた。
 俺はうとうとしてたんだが、目が覚めたら、ちょうど声が聞こえたんだ。
『だいじょうぶ?』
 ってな、掠れちゃいたが、聞き覚えのある餓鬼の声で。
『大丈夫だ』
 また政宗が答えてた。
――それで、俺ははじめて気がついたんだがな。
 5A式のうめき声は、くりかえし、大丈夫なのかって――
 サスケ自身のことじゃない、政宗のやつを心配して、呼びかけて。
 だから政宗も、『自分は大丈夫だ』ってくりかえしてやってたんだ。



 結局、サスケの熱は三日目に下がった。
 体の中で散々喧嘩して、細胞の方が慣れたのか――それとも、5A式の体に廻るBASARA-eが滞留してただけだったのか、とにかく一度熱出して、耐性がついたんだろって話だ。
 あいつが苦しんだ分、他の奴が苦しまずにすむようにってな、俺も色々対策は立ててみた。活かせたつもりだ。これは、技術者として思うところでな。
 あー、なんだ、個人的には。
――5A式、あの餓鬼、おっかねえなって、思った。
 情が強すぎる。
 いや、あー、うー、情があるのはいいんだがよお…。
 それが全部、政宗に向いてやがんだ。
 一途と言やぁ聞こえはいいが、死んだら化けて出るタイプっつうか、なあ…。
 あ?人形なら怖いはずねえよ。壊れた機械も怖かねえ。
 ありゃもう人間の範疇だ。だからたち悪いんだろうがよ。
 そう思って見ると、普通の餓鬼みてえにニコニコしてるのも、違って見えてな。
 それだけじゃねえ、そもそも俺や他のタワーの連中に向ける顔と、政宗に見せる顔がまるで違う。政宗と……真田くらいか。そのうち、研究室の外でもことさら、小生意気なことを言うようになったが。
 今にして思うと――サスケ、あいつ、あれでもまだ猫かぶってやがったな。
 タワーの連中の前で子どもぶったりするのなんか、単に人間そっくりに動けますよっつーアピールだろ。あいつの本性はあんなもんじゃねえよ。
 この前なんかちょっとからかったら、俺の研究室の試作品全部ぶち壊そうとしたんだぜ?
 いや、あれは目がマジだった!もう小せえやつ持ち上げて床に叩きつける寸前だった!
 ん?おお、最後に会ったのは十二月だ。
『おう、調子はどうだ』
 って声かけたらよぉ。
『おれさまは絶好調だけど、チカベ博士は体脂肪率計った方がいいよ』
 …ああ、もう、にっこりってな笑顔で…。
――つまり、あれはそういう餓鬼なんだ。
 人形だなんて思って舐めてかかったら、えらいことになるに違いねえぜ。















5A式はハンプティ・ダンプティにお辞儀する≫四





=閃国BASARA=top≪