5A式は時を泳ぐ猫になる
Dr.ダテのその日の目覚ましは陽気でどこか間の抜けた、聞き覚えのない音楽だった。
いつもは頼んでいなくとも腕の中にある抱き枕の姿は今日はなく、起き抜けの上手く働かない思考のまま政宗はぼんやりと周囲を見回した。
「・・・サスケ?」
掠れ声で呟いて、リビングへと続く扉が開けっ放しになっているのに気付き、政宗はベッドに戻りたがる身体を無理矢理に起こした。
小さな、橙色と紅色が仲良く並んでいた。
その視線はリビングにあるTVに釘付けで、政宗が起きてきたのにも気が付いていない。
これは珍しいと画面に目をやれば、恐らくそれは子供向けのTVプログラムだろうと判断する。
青い、よくわからない丸っこい生物が独特のしゃがれ声で話している。
はてこんな番組があっただろうかとよく見れば、登場人物の服装や、町並みがやけに時代がかっている。
画像も鮮明ではなく、くすんで荒く、音声もとびとび、しまいにはぶつんと何秒か途切れたりとひどい有様だ。
橙色の、政宗の息子といってもいいかもしれない少年は、垂れた目をいっぱいに見開いてそのお粗末なプログラムに見入っていた。
紅色の髪の少年は相変わらずの無言無表情で何を考えているのかはわからないが、その小さな手は橙色の少年の同じく小さな手を縋るように握りしめている。
「Hey、サスケ、小太郎」
びくん、と身体を揺らしたサスケは(相変わらず芸が細かい)、政宗の姿を目に留めた瞬間まさにぱあっと花が舞い散るような可愛らしい笑顔を浮かべた。
「おはよ、まさむね」
「・・・・・・」
二つの小さな頭を挨拶代わりにぐりぐりと撫でてやれば、きゃあ、と嬉しそうにサスケが声を上げる。
小太郎はやはり無言のままだ。
「何見てたんだ?」
「えっとねえ、未来から来た猫型ロボットがご主人様のご先祖様を助けに行く壮大な物語!!」
「・・・・・・」
サスケの言葉に改めて政宗は画面を見直した。
「・・・これがロボットか?」
「ちがうよー。それはみーちゃん」
「・・・じゃあ、どれだ」
「これー」
細い指先の指し示すものを見て、政宗は形のいい眉を顰めた。
「・・・どこが猫型なんだ」
「わかんないー」
「・・・・・・」
猫型らしい奇妙なロボットが、腹部にあるポケットから物理的にあり得ない大きさの道具を取り出している。
教育によくないな、と一瞬政宗は思ったが、それよりも聞かなければいけないことがあるのに気が付いた。
TVに接続されている、長四角い金属の箱。
それを、政宗はつい最近見た記憶があった。
旧世紀に使われていた映像再生装置なんだと、そいつは黙ってさえいれば精悍で男らしい顔をだらしなく緩ませて言っていた。
こんなに保存状態のいいものは珍しいんだと、数日前から徹夜で修理をしていて今日やっと終わったんだとDr.モウリの研究室にいた政宗に自慢しに来ていたのだ。
珍しく真面目にしているかと思えばそんなことをしていのかとDr.モウリの逆鱗に触れ散々な目にあっていたが。
「サスケ」
「なあに?」
「正直に言え。これをどこから持ってきた」
くりん、とサスケは小首を傾げて政宗を見上げた。
「Dr.チカベがね、子供用のプログラムしか見つからなかったから、貸してくれるって」
にこにこと言うサスケの隣で、小太郎が紅色の頭をふるふると横に振っている。
「・・・無理矢理持ってきたのか?」
こくこくと小太郎は頷き、サスケは笑う。
「Dr.チカベ泣いてたー」
画面の中で猫型とは思えないロボットと仲間たちは、頭につけたプロペラのようなもので空を飛んでいた。
あの若白髪めうちの可愛いサスケが変な事を覚えたらどうしてくれるんだと本人が聞けば泣いて抗議しそうな事を思いながら、政宗は改めてプログラムを眺めてみた。
青く丸っこいこれを猫型と称しているセンスが正直いってわからないし、そのくせポケットから出す道具が異様に高性能なのが解せない。
一見するとただの扉にしか見えないそれのどこに異なる空間を繋ぐ機能が付いているのか。
ただの懐中電灯を当てただけでなぜ有機物も無機物も等しく小さく、または大きく出来るのか。
「・・・質量の変化はどうなってるんだ?いや、小さいが密度が高い、ということになるのかあれは」
「真面目に考えないでよー。少年の心を忘れちゃ駄目だよ?」
「いや、少年の心だけで解決出来るものじゃないだろあれは」
「まさむねって、妙なところで真面目だよねえ」
しみじみとした口調で言って佐助は再び画面に視線を戻した。
「ねえ、この猫型ロボットはね」
「あれを猫型とは認めないぞ」
「どうでもいいじゃない。自分を助けてくれたご主人様の役に立つ為に、過去の世界に来たんだ」
「現代で役に立てよ」
「まあねえ。でもまさむねのご先祖様が困ってるっていうなら、俺だって飛んでいくよ?」
いつもの他愛もない戯れ言、のはずだったが、政宗はサスケの口調に含まれた『本気』に気づけなかった事を後に穴を掘りたくなるほど深く後悔する事になる。
前田慶次に頼んで手に入れた服はまるで誂えたようにぴったりの大きさであった。
詳しくは聞いていないがDr.マツが作ってくれたのだろうなと思う。
「よいしょ」
カーキ色のつなぎについていたフードをかぶれば、ぴん、と猫の耳が立つ。
隣ではグレイのつなぎのフードをかぶった頭にやはり猫の耳が立ち上がっている。
勝手にせい、などといわれながら織田家から快く譲り受けた古ぼけた大きな机の引き出しを開けて、中をのぞき込んでみる。
自分の中に恐怖という感情があるのかはよくわからないが、自分のすべてがただ一人のためだけにあることはよく知っている。
「ねえ、俺はあなたのためだったら何でも出来るんだよ」
(あのときは何も出来なかったから。あなたは俺に何も望まなかったから)
「・・・?・・・なんだろ・・・」
時折走るノイズに細い眉を顰めて、後で報告しなきゃ、と思う。
なぜだか一度も報告をしたことはなかったけれども。
「早く行こう。じゃないと縛って転がしてきたDr.チカベが見つかっちゃう」
「・・・・・・」
こくこく、と自分に良く似た小さな頭が頷くのに満足げに笑い。
「それじゃあいよいよしゅっぱーつ!!」
遠くから聞き覚えのある怒声が聞こえるのにくすりと笑い、二人は固く手を繋いだまま引き出しの中へと身軽に飛び込んだ。
どこまで深く潜れば、あの頃に帰れるのだろう。
『Tommorow Never Comes』のけんぱさまより、誕生日にといただいたものです。
うわあ意味わかんないくらい可愛い何この忍びーズパーン!となってから、
密かに独り占めしてましたスミマセン!
けんぱ様宅の拍手にあった猫耳ロボッツ、可愛い可愛いと言っていたのが5A式ネタになっていて…!
こういう話の展開も良いですよねー!!
というわけで『閃』頁にも掲載させていただきました。
けんぱ様、ありがとうございましたああああ!!
|