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一歳になるという、部下の子どもの髪は真っ赤だった。真っ赤、と言うより赤みの強い橙色で、その色にあまりに見覚えがあったから、真田は妙に狼狽えた。 ――そのうち会えるだろうと思いながら二十年と少し。 けれど、戦国の世で自分の影を勤めた十ほども年上の忍びが、この姿とは。 「おお……」 両手で支えればずしりと、それなりに重い。何やら生温かい。まるでタオルを着た湯たんぽだ。きょとんと真田を見つめる鳶色の眼は、びっくりするほど澄んでいる。その真意を覆い隠す笑みもない。オレンジがかった赤毛もまだほわほわとまあるい頭を覆うばかりで、鬣にもならない。 ――それでも、これは、佐助なのだと思った。 いや、まあ、佐助って名前にしちゃったんですけどね。と部下は笑う。戦国の世で夫婦ともども真田忍びの一員であった記憶を持つ部下たちは、ともに黒髪だ。赴任先から帰ってきたばかりで火急の報せと言うから何かと思えばこれである。 この人ったら最初は私が長と密通したんじゃないかみたいな顔してたんですよ、幸村様も何とか言ってやってください。 いや、でもコイツが長見つけたらまず幸村様に突き出すに決まってるしなあって、すぐに誤解は解いたし。 それは私が言ったんですー。あんたは言われるまで凄い顔してましたー。 俺だって言われる前に思ったんだよ!あ、こりゃこいつが長なんだなって。 だからって呪われた名前つけちゃったよね。 ……とりあえず幸村様、その危険物持つみたいな手つきやめてくれません? 「む!?」 できるだけ体から遠ざけるように伸ばした両腕の先、今生では槍など持ったこともない大きな両手に支えられた幼子は、笑いも泣きもしない。ついでに一言も発しない。 あ、一応しゃべりますよこいつ。 ほーら長ー、幸村様だよー、真田の旦那ですよー。 すると子どもはむにむにと唇を準備体操のように動かした。 「……んな?」 ――ほとんど「にゃ」にしか聞こえない。 きゃー長よく言えたねー!と黄色い歓声をあげる部下たちを胡乱な目で見つめ、真田はひくりとひきつった顔で、笑った。 「佐助、うむ、なんだ、その、」 無事の誕生、大儀であったな。 それが二年前の話。 「あー、確かになあ。生まれてきただけでめっけもんってやつだ」 そう思えば何もかも、許せる気がする。 そう銀髪に左眼帯の男は言った。こう自己主張が激しくては間違えようもない。四国の海賊部将だ。 「あの方はまだ見つからぬのでござるか、元親殿」 「毛利なー、探しちゃいるんだが、頭のいい人形顔で日輪信仰ってだけじゃ分からねえやつには分からねえみたいでよ」 それに、年齢が絞れないとなるとな。 そうでござるなぁ。 うんうんと頷きあって、真田と長曾我部はそろってパフェのクリームを一口。 白いワイシャツにネクタイをしめた男がふたり、苺と抹茶のパフェを前に真剣な顔だ。横を通るウェイトレスは一瞬目にだけ疑問を乗せていく。あのパフェ、子どもたちの分だと思ったんだけど。そんな目で、真田の隣を過ぎていく。 子ども達。真田の隣の。 「Hey,長曾我部!こいつはおれにBirthday presentか?」 一日遅れだぜ、まったく。 まだ声変わり前のハスキーボイスは御機嫌だ。 「……、」 小学生だという右眼帯の少年の膝に乗せられて、橙頭は意味が分かっているのかいないのか、されるがままに頭をなで回されている。 「いや、プレゼントはこっちのつもりだったんだがな」 海賊が行儀悪くスプーンで指した真田を、猫めいた左目が「Han?」と見上げる。 「幸村はいりませぬか、政宗殿」 微笑むと、分かりやすく頬を紅潮させて、少年はニイと笑う。 「もらっといてやる」 「それは何より」 すると、橙頭は幸村を見て、政宗を見て、むうと唇を尖らせた。 「……おれさま、ぷれぜんと」 「おー、Thank you,たけだの忍び」 うりうりと橙頭に頬ずりする少年は、記憶にある好敵手より感情表現がストレートに見える。 ――いや、しかし、まあ。 「独眼竜がこれだろ?」 ぼやくような元親の声に、幸村は何気なく振り向いた。 「竜の右目のやつ、高校生だった」 「……こ?」 航行生? 出会った頃には自分より何倍も大人びて見えた、オールバックと頬の傷の男前が。 (一回り下……) 「……」 「……」 「……いや、でもよぉ、お前なんか、忍びもこんなだし、そこまで衝撃的でもねえだろ?」 「佐助は元から、」 こんなもんだった気がするでござる。 「……」 「……」 「真田、こいつにjuice飲ませていいか?」 「では少しだけ」 「おい、お前、怒っていいんじゃねえか」 元親の言葉を解したか否か、小さな忍びは小さな竜の膝で、小さな頭を傾げてみせた。 『おれのRival(27) それがしの忍び(3) おれさまのまさむね(10)』2015/07/05発行 |