※注意事項※

転生・現代・モブ伊達輪姦前提。

性暴力描写アリ。

その他もろもろ地雷のある方にはオススメいたしかねます。


本編R-18












『恋というのは人を幸せにするものだ』
 という男がいる。かなり浮かれた頭が紡いだ言葉だと思って、佐助はあまり信じていない。
 幸せというものもよく分からなかった。いつだって自分のことを不幸だとは思わないが、幸せだとはなおさら思えないのだ。しかしその男は。
『幸せって言うのは、そうだね、嘘じゃない笑顔で、当たり前でいられるってことかな』
 だから、とつづける。
 今の佐助みたいな感じだよ。と。
 要するにその男は、佐助が恋をしたのだと、冷やかしに来たらしかった。いつもは鈍行ぶらり旅で各地を回っているくせに、わざわざ新幹線に飛び乗って。驚きの暇人だ、と佐助は苦笑したものだ。
――だが、冷やかしでも、心から『よかったな』と言われれば、嬉しくないわけでは、なかった。
 幼いころに死んだ両親の残した家に、高校卒業とともに住み着いて数年。
 はじめての同居人ができたのは、この二月のことである。
 猿飛佐助が一目惚れしてナンパして落として連れ込んだ、と噂されるその人は、佐助より四つ下の大学生で、細身の気だるげな、隻眼の目つきと牙のぞく口元が狼を連想させる、――男である。
 同性だ。
 佐助はそういう趣味のつもりはなかったし、女の子としかつきあったことはない。それは相手も同じのようで、初めて告白まがいのことを言った時には、呆然と目を見開かれたものだ。
『……あんたは男を押し倒したいと思うことがあるのか』
 単に酒に酔っていただけかもしれないが、『何言ってんだコイツ』と、そういう顔に見えた。
――他の男にはねーよ、この酔っ払い!
 きっとこの上なく情けない顔になっただろう佐助に、男は、ニンマリと猫めいた笑みを浮かべて、冗談のように。
『あんたの手に触られんのは、嫌いじゃねえけどな』
 と。
 と!
 そんな、佐助の酔いを吹き飛ばすようなことを言って、コテンと寝てしまったものだ。
 翌朝、素面になって目覚めたと思ったら今度は、『押し倒されたら蹴飛ばして逃げると思う』との答え。
――ただその後に、受け入れる努力はする、と、つづけて。
 射殺さんばかりの目で睨まれた。
 そんな目をするのに、顔はどんどん赤くなって、佐助の脳内の振り子は『懐柔する』と『今すぐ蹴飛ばされる』の間を行ったりきたりした。
 いつもいつでも、目の前のことを考えるのに精一杯で、目の前のことというのはその人のことだった。出会ってから数ヶ月。
 佐助のコイビト≠ヘ、名を、伊達政宗という。
「政宗、……まさむね、」
 古めかしい、刀の銘にでもなりそうな名は、口にすれば何故だか柔らかい。温かいものを手にくるんだような気持ちになる。呼吸が震える。
 何でもないような声を作って、佐助は、洗面所をノックした。
「政宗、着替え、置くから」
 洗面所の奥に風呂場がある。風呂場からはシャワーの音が聞こえてくる。ずっと絶え間なく聞こえてくる。
 政宗の返事はない。
 そっと、音も立てずにドアを開けて、着替えだけ籠に乗せて、肌色の影を確認して、ドアを閉じた。
 シャワーの音に嗚咽が混じっていないか、悲鳴が聞こえないか、佐助は耳をすませる。
 もちろんそんなものは聞こえない。聞こえたら踏み込んでいいだろうかと、思ってみただけだ。
 政宗はただ湯にうたれている。
 それが水になっていないか、湯船に沈んでいないか、それだけは確認する。
 剃刀のたぐいは最初の日に片付けた。
――最初の日。
 政宗が、どこだかの男たちにレイプされた、三日前。











愛が馬鹿を壊す日










『愛が馬鹿を壊す日』2013/09/22発行