※注意事項※

現代モブ伊達輪姦前提。

死にネタメインではないですが、近いものがあります。

その他もろもろ地雷のある方にはオススメいたしかねます。


本編R-18












 叫んで、叫んで、叫んで。
――目を覚ます。



「政宗!」
 目を覚ました、つもりだった。
 だが実際は、佐助の呼ぶ声で――やっと、我に返った。
 パタパタと目を瞬かせると暗い中、佐助の鳶茶色の眼がすぐそこにある。透明に光っている。政宗、と囁かれて、そっと髪をなでる指の感触があって。
――なのに、びくり、と跳ねる体は、どうしても。
「あ、ごめん」
 電気つけるね。
 政宗の、きっと怯えた表情を浮かべたはずの顔に、気を悪くした風もなく――何でもないことのように謝って、佐助はベッドのそばの小さな電灯を灯した。ランプシェードを透かした卵色の光。
「……起こしたか?」
「本読んでたよ」
「悪い、」
「夜更かししてたんだってば」
「……」
「政宗」
 手、握っていい?
(……聞いてんじゃねえよ)
 そう思って、けれど佐助がそう聞くのは、自分のためだと分かるから、顔を見られたくなくて、うつむいて、腕を突き出す。
 冷えた指先を温めるように、佐助は政宗の両手を包み込む。
 政宗は悪夢にうなされる。時折叫ぶ。同じ部屋で寝ている佐助はそれで起きてしまう。政宗を責めることは無い。前は同じベッドで寝ることさえあったのに。本を読んでいたと言うのは嘘ではないだろう。だがその方が早いと備えているのは政宗のためだ。政宗に気を使わせないためだ。手を握っていいかと聞くのは政宗のためだ。もしも悪夢から目が覚めて、何も見えない闇の中、佐助が抱きしめてくれていたら――きっと自分は、佐助を突き飛ばす。
 頭の中を空っぽにしようと政宗は努めた。
――大丈夫だ。何てこと無い。
「……今、何時だ?」
「んー」
 尻ポケットからスマフォを取り出して、佐助は「二時前」と答える。
「こんな時間までなに読んでたんだ」
「ジョジョですが」
「COMICじゃねーか…」
「いやー、止まらない止められない」
 あ、カフェオレ入れたんだった。飲む?
 佐助の声は、何もなかったように軽い。
 飲む。と答える自分の声も、そうであればいい、と政宗は願う。
――何もなかった。何もなかった。同じ日々だった。
 佐助と出会って十一ヶ月。
 一緒に暮らし始めて二ヶ月。
 政宗がどこかの男たちにレイプされてから、一週間目。


   ***


「俺のこと、覚えてる?」
 自分とそう年の変わらない男に見えた。だから、大学のどこかで顔をあわせたことがあったかと、政宗はひとしきり考え――首を振る。
「No.あんた誰だ」
――こんな派手なオレンジ赤毛、一度見たら忘れない。
 すると男は、「あ、……そう」と、どこかがっかりした様な、拍子抜けしたような顔をした。
 就活でもしているのかスーツ姿で、ジャケットを脱いで袖をまくっている。影法師のようにひょろりと背丈が高い。顔立ちは、あまりくせが無いようだ。よく言えば整っている。かなり整っている。政宗の、目つきが悪くて右目は眼帯、薄い唇に牙が覗く顔とは、まったく違うタイプである。表情ひとつでずいぶん印象が変わるだろう。だと言うのに、男は「えーと、ちょっと待って」としどろもどろだ。困ったように寄せた眉のまま笑う顔。情けない表情。
 しかし、見ていたらつい、もっと困らせたくなって、政宗はニヤリ、と口の端をつり上げた。
「What?ナンパにしちゃ手際が悪いな」
「え」
 違うそんなんじゃないなに馬鹿言ってんの、という類の返答があると思って少し待つ。
「……」
「……」
「……」
「……」
 見る間に男は赤くなった。
「ごめん違うから今のは忘れて!」
 そして、走り去った。
 五月の、公園前の並木道でのことである。
 次に男に会ったのは六月だ。
 同じ並木道に軒を連ねた喫茶店で、雨の時期だというのに店内の人影はまばらだった。平日の中途半端な時間帯と、店の地味な雰囲気のせいだろうか。だから、カウンター席の隣に誰かが座ったのが意外で、振り向いた。
「この間は、どうも」
 オレンジ赤毛がへらりと笑っていた。
「……Ah,誰だったけか」
「えーとね」
「Stop.この前のことは覚えてる。あれは忘れろって方が無理だ、悪いがな」
 そう言ってやれば、男はまた情けない顔になって、くしゃりと笑った。
 男は、猿飛佐助、と名乗った。
「上杉さんとこの、かすがの幼馴染。かすが、は分かる?」
 政宗は頷いた。上杉謙信は縁続きだ。そしてかすがは、上杉の広い屋敷に住み込みで働いている女である。
「俺と、もう一人小太郎ってのがいるんだけど、たまに荷物運びとか手伝って出入りしてたから。去年の正月、伊達くん来てたでしょ?」
 政宗はコーヒーを口に含みながら思い出す。正月の挨拶に行ったのは間違いない。――言われてみれば、どこかで赤毛を見たような、見ないような。
「いや、覚えてなくてもいいよ」
 軽い声に遮られて、隣を見れば、男はアイスコーヒーのグラスに直接口をつけて、美味そうに飲んでいる。今日もスーツだ。伊達くん、と呼ばれたことに気づく。かすがは確か、政宗が中学三年になった年に、高校のセーラー服を卒業した。
「猿飛、あんた年は」
「二十三」
「なるほどな」
「伊達くんは確か、」
「十九。政宗でいい」
 かすがはそう呼ぶのだから、と思って何気なく言うと、隣の気配がぴたりと固まった。
 見れば、猿飛は僅かに笑んだ口元のまま、目を開いたまま、アイスコーヒーをじっと見ている。
――固まった、と見えたのは僅かに三秒。
「……政宗」
 フ、と吐息を吐くように微笑んで、男は。
「じゃあ俺も、佐助、でいいかな」
――いつもそういう顔をしてれば女にモテるんじゃないか?と言ってやろうかと思ったが、なんとなく薮蛇になりそうな気がして、やめた。
 薮蛇になると、その時すでに、薄々気づいていた。


   ***


「佐助は、お前が襲われたのは自分に責任があると思っている」
「…そんなこと、」
 そんなことは無い。だがそんなことは、知ってる。
 確かに、男の声が、嘲るように笑いながら――イケるって、こいつホモだから、というようなことを言ったのは覚えている。佐助にも話してしまった。そんなこと。そんなことを――きっと、佐助は、気に病むだろう。
「それで、それだけじゃない。佐助の馬鹿はな、馬鹿なことを考えて勝手に罪悪感を覚えているんだ」
 政宗が酷い目にあったのは、半分は俺のせいで、でも今、政宗はずっと家にいて、俺以外の男に会わせなくてもいいってことを俺はどこかで喜んじまってる気がするんだ。片倉の旦那に知られたくないって言われて、真田の旦那にも隠したままで、でもそれは政宗が望んだことだからって言えば、俺は政宗を閉じ込めておける。誰かに見せろって言われても跳ねつけられるかもしれない。なあ、信じられるか?あの政宗が、俺だけに明かして、片倉の、右目の旦那には知られたくないんだって。政宗は死にたいくらいに思ってるんだ。俺のせいなのに。なのに、俺は、そこに、救いを求めてる。
――分かってやってくれ、とは言わないが」
 どこかで猫が鳴いた。どこか遠くの、日向で、のどかに。
「かすが」
「何だ」
「俺はここしばらくのお前を最高にいい女だと思ってるが、今は最高に嫉妬してるぜ?」
 佐助の馬鹿。なんで俺に言わない。なんで。
――馬鹿みたいに好きなのは、俺だって同じなのに。











恋が馬鹿を殺す日










『恋が馬鹿を殺す日』2013/05/04発行