その葉の影で、キイと木のきしむ音がした。
 ちゃぶ台を抱えたまま顔を向ければ、さらさらと時雨の止まぬ庭先に、大きな蛇の目。
 ばさ、と金木犀の枝を揺らして、傘に張られた紙の藍色と生成色に、小さなオレンジ色が散る。
「わっ」
「気をつけろって、かすが」
「……」
 傘はひとつ。気配はみっつ。
 金の髪の、七つほどの少女がまず政宗を見て、照れを隠すようにきゅっと唇を結ぶ。
 それから、痩せた体におぶられた小さな紅赤毛が、無言で手を振った。
 その赤毛を背負い直した少年はひょろりと背が高い。
 肩で大きな傘を支えていたのだろう、揺れた蛇の目が半分傾いで、橙赤毛と、鳶茶色の左目が覗いた。
「…来たよ」
 素っ気ない挨拶に政宗はにやりと、狼のように笑う。
 小さな町で洒落た小間物ばかり扱う、隻眼の、残った左目も鋭い、よそから来た若者。
 町の人間からはそう邪険にされてもいないが、足繁く訪ねてくる友人はと言えば、この三人だけだ。
「You're welcome.foxes」
――それとも、三匹と呼ぶべきか。
 橙と、金と、紅の髪をした、彼らは狐の兄妹弟であるという。
 笑顔はなく、ただホッとしたように気配を緩ませて、子どもの姿をした狐たちは縁側に歩みよった。
「Towel出しといたから適当に使え」
「ありがと」
「……っ」
「あ、こら、小太郎!」
 縁側で下ろしてもらうが早いか畳に突進しようとした一番小さな紅赤毛を、金の髪のかすががつかまえる。「ちゃんと拭いてからだぞ」と小太郎の背の雫を払って足を拭いてやる姉狐に、小太郎は何か言いたげだ。
目元を隠す赤い前髪の下で、小さな鼻がスンスンと動いている。
――嗅ぎつけたか。
「芋?」
 傘を畳んで軒下に立て掛けて、橙頭も弟そっくりな仕草で鼻を鳴らした。
「Yes,この前のSweet potatoな」
 くれた本人がわずかに首を傾げたのは、サツマイモだけでない別の匂いが混じっていたからだろう。
 焼き芋にできる天気ではない。せっかくだからと茹でてつぶして、白玉粉と、肉屋でもらってきた脂でこねておいた。
「甘藷餅にしたんだ。あとは焼くだけだから座って待ってろ」
「かんしょもち」
 人間の聞き知らぬ言葉を覚えるように、兄狐はそうくりかえして「ふうん」とつぶやく。









目次

p3きつねのじゃのめがさ(前)
p7きつねのてぶくろ
p16きつねのゆかた
p31きつねのわたぼうし
p41きつねのけいとだま
p76きつねのじゃのめがさ(後)

後書










『きつね きつね』2012/12/30発行