奥州筆頭、伊達政宗。
 独眼竜のふたつ名を持つ武人であり、齢わずか十九にして奥州を束ねる国主でもある。
 伊達家の先代当主、故輝宗から早くに家督を譲られ、以来伊達家の長として民と家臣を守ってきた。
 慈悲深く国の者に慕われる、文武政戦に長けた、この戦乱の世の天翔る気高き青い竜――「はい、ちょい待ち」
 橙頭の忍びの声に、片倉小十郎景綱はジロリと抉るような視線を向けた。
「何だ」
「何って、なにその誇大広告!いや嘘八百とは言わないけどさあ、」
 恫喝めいた低い声も受け流したように、緑斑の忍び装束、その肩がすくめられる。
「慈悲深いってタマじゃないでしょうが。竜の旦那が――」
 一瞬、言いにくそうに言葉を切って。
「…記憶喪失だからって、理想刷り込もうとしてない?」
 ちらり、と政宗を見る目の色は、明るい鳶茶色。
――その目の色が、この日の本で珍しいものであることは、分かる。
 記憶喪失、と形容される今の政宗でも、分かる。
「事実が理想に近いってことは認めざるを得ねえな」
「うっわ親馬鹿」
 取り澄ました顔で片倉小十郎――自分の守り役であるという男は、得たりとうなずく。
 手に負えねー、と鉢金の下で目を覆いながら、忍びは指の隙間から、また政宗を見た。
「この人は信用していいけど、あんたに対する評価だけは真に受けない方がいいよ」
 橙頭の忍びは、どうやらよその国の忍びであるらしいのに、そんなことを言う。
「Han?だったらあんたはどんな評価をくれるんだい?」
 おかしな男だ、と小首を傾げて笑んで見せれば、忍は虫でも噛んだような、何とも複雑な顔をした。
「…あのさ、コレ本当に覚えてないの?」
 無遠慮に指をさして、政宗の質問に答えず小十郎の方を向く。
「……、」
 小十郎は無言でその指をつかむと、ぼきっと上に向けた。









『蒼天、明ける。』2012/09/15発行