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元ネタ:『笑う大天使』川原泉,白泉社 ※信号機トリオがお嬢様です。 ※女子か男子かはさておきお嬢様です。 ※カップリングはないものとします。 *羊が一匹* 真田幸村の朝は武田のお館様との鍛錬、という名の殴り合い、そして佐助を加えての朝食に始まる。 「幸村よ、学園は楽しいか?成り上がりの娘などと言われるようなことはなかろうな?」 丸いちゃぶ台の向こうで、信玄公が低い威厳のある声でそう言った。 「いいえお館様……みな親切でござる。先生も生徒も」 そーかあ……さすがだねえ、と佐助がご飯を口に運んだ。 「あそこは名門・良家のお嬢様ばっかだから、いじめとか校内暴力とか、品のない事しないわけだ」 三人で囲むちゃぶ台は、システムキッチンとカウンターを挟んだダイニングテーブルの横の床、フローリングに直に置かれている。 数年前にこの屋敷を建てた武田信玄、その彼の発した『落ち着かぬな』の一言で、広々としたダイニングに長年愛用してきたちゃぶ台を設置することになった。 幸村はぽりり、と沢庵をかじった。 「あの厳しい入学資格審査にパスした事自体が奇跡のよーなもんなんだから、旦那も頑張って猫かぶってお嬢様するんだよ」 佐助はのんきに笑っている。 「うむ……」 幸村は重苦しく頷いた。 単にこの家から一番近い学校だったので、素直に高校の入試を受けて。 合格したので、素直に登校したらば。 『おはようございます幸村さま』 『ごきげんよう幸村さま』 『幸村さま、幸村さま!お昼をご一緒いたしませんこと?』 某は聖バサラ学園を知らなかったのだ。 にっこり微笑む大天使様の白い翼の下に、千姫さまだの梅姫さまだのがうじゃうじゃいるなんて、知らなかったのだ。 *羊が二匹* 伊達政宗の夜は、父宛のお歳暮から失敬したパーティセット(政宗セレクト)とともに始まる。 場合によっては口うるさい守役もいっしょだ。口止め料にと注いでやるのはスピリッツ。 「ツマミ?サラミがあるぜ、ほれ」 「……せめて切ったらどうなんです」 何とも暗い顔の小十郎にサラミを渡して、政宗はカラカラと笑った。 「爺やじゃあるまいし歯はまだ丈夫だろうが。食いちぎれ!サファリ・ランドのライオンみてぇによ」 元気な政宗に対して小十郎は茫洋とした表情。強面ながら端正な顔の、伊達社長の懐刀と呼ばれる秘書の緊張感はどこへやら。 「……なんだよそのマナザシは。たった3杯でもう酔ったのか」 しょーがねえなー、と左目だけの政宗の目が見上げる先で、がっくりと頭をたれる。 「こんな……はずじゃなかったっ……俺が、貴重な青春を犠牲にしてお育て申し上げたお嬢様なんだから……、もーちっとなんとか……搨キけてたおやかな、はにかみやさんのお姫様になったっていいはずだってのに」 ガッと顔を上げると、オールバックから黒髪が一筋垂れている。 「どこをどー間違ったらサファリ・ランドなんです!?俺が読んだのは『スポック博士の育児書』だった!『野生のエルザ』なんかじゃねえっ!だのになぜ!?」 青春をかえせーっ! 小十郎さんという人は、飲むとウェットになるタイプらしい。 「……幼稚園からあの聖バサラに通ってて、よくもまあ今までボロが出なかったものだと……」 何やらまだぶつぶつ言っている小十郎に、政宗は一つため息をつくと。 「小十郎さま、夜中ですのよお静かにあそばして」 指先を優雅に頬に沿えにっこり笑って見せたりした。 「お酒は明るく楽しく飲みましょう?」 背後にかぶった猫が見える。ように小十郎は思った。 「……その猫、一生大切になさいませ、政宗様」 人並みの幸せが欲しかったらそうした方がいい。 政宗は眉根を寄せた。 *羊が三匹* 幸村と政宗は転校生を胡乱な目で見つめた。 (不気味な御仁でござる……さっきから焦点の定まらぬ目つきで) (空ばっかり見てるぞ。へんな奴……) たとえ慶次の目が空中をさ迷っていたとしても、天国の御母様を偲んだり加賀の叔父夫婦を懐かしんだり、ましてや冬の青空の美に心を奪われたりといったロマンティズムとは無関係である。 慶次さんは目が虚ろになる程、腹がへっていたのだ。 それには理由がある。 「た……ただいま……」 「ああ、おかえりなさい。どうでした?あたらしいがっこうのかんそうは」 出迎えたのはバラの花を背負った麗人 「よろしいんじゃないでしょーか」 (ところがこの家に帰った途端食欲が無くなる……) 「おちゃのよういができていますよ。はやくきがえていらっしゃい」 制服から着替え大食堂にふらふらと向かえば、コックの直江が上機嫌で立っている。 「オレンジのシャルロットでございます!」 「慶次殿のお口に合いますかどーか心配ですが……ささ、どーぞ」 何をおっしゃいます直江さん。 たまんねえ……と冷や汗をかきつつ一口。 そして。 目が合う。 にっこりと微笑む、謙信公。 もっとたまんねえ……と二口。 さぁ〜すが謙信殿下……「優雅さ」を「気品」と「威厳」でサンドイッチして「高貴さ」でコーティングしたエンゼル・パイ……ピ・ポ・ピポ。 そんで三口も食えばもう……胸一杯腹一杯…………。 (は……腹はへってても) だけど「前田利家の育て方が悪かったらしい」なんて思われたくねーしな。 『おめえも苦労してんだな』 背中からかぶった猫にまで同情された。気がした。 優雅な殿下と紅茶の香りに挟まれて、前田慶次の一日は暮れていく。 *お嬢さんは山へ芝刈りに* 「……あら?慶次さまはどちらへ?」 (む……?) 幸村は顔を上げた。 「チャイムはとっくに鳴ってますのに……まさか……またどこかでお迷いになってらっしゃるのでは……!?」 「まあっ」 教室の中がざわめいている。 「たいへん!どうしましょう!?」 (バカだぜそりゃ) 政宗は頬杖のまま瞑目した。 クラス委員の幸村が席を立つ。 「それが、……わたくし捜しに行ってまいりますので、皆様は静かに自習を……」 「幸村さまお一人では大変ですわ、わたくしもまいりましょう!」 「わたくしも!」 「わたくしも!」 立ち上がる同級生達に、幸村はむむむ、と考えて、何とか笑顔を取り繕った。 「で……では副委員の政宗さま、ご一緒に……」 「はあ……」 忘れていたが政宗さんはこのクラスの副委員なのだ。 お互いに猫をかぶっていることは本人以外誰も知らない。 「……校庭にはいらっしゃいませんわ。そちらは?」 「いいえ、全校舎当たってみたのですけれど……」 困りましたわね、とお互いに顔を見合わせる。 (む?) (あの煙は何だ?) 「……行ってみませんこと?政宗さま」 「ええ幸村さま、そーいたしましょう」 ザザザ、と下草を掻き分けて行けば、確かに転校生の後姿。 焚き火を前にもぞもぞと……。 「慶次さま、」 声をかける。 ポニーテイルがくるり……と振り返る。 「んば?」 奇妙な声が返された。 言葉を発するはずの口に。 「……そっそーでござったのか!伯爵令嬢とは名ばかりの、なんとゆー数奇な運命……」 「Ah-,アジのひらきくわえてるの見たときゃ気でもくるったんじゃねーかと思ったぜ」 「所詮……俺は庶民」 フッと慶次は笑った。 「庶民にゃ庶民の生活基盤に適応した食生活ってもんがある。アジのひらきサンマの塩焼き、大根おろしに豆腐のみそ汁、丸味屋の『ふりかけ』桃屋の『ごはんですよ』」 そして拳を高く掲げる。 「そりゃたまにはワインで西洋料理もいいかもしれないよ……でもねっ!」 その手には、枝に刺された魚のひらき。 「原色・華麗・極彩色の外国料理より淡白・質素・パステル調の日本食を俺は愛する!貧乏暮らし貧乏育ちの我が食生活ベースは何たってアジのひらき!」 アジのひらきにぼんのうしてどこが悪い! 幸村さんは経験的に知っている。 政宗さんは直感的に知っている。 「たきぎ……もうちょっと集めた方が良いのではないか?」 「手伝ってやってもいいぜ、俺」 口にしてからはたとお互いの顔を見た。 「え…?」 「あ…」 「ん?」 慶次がアジのひらきをぴしりと立てる。 「……さっきからなんか変だと思ってたんだけど……これまでとはうって変わったお嬢様らしからぬリアクションの数々、その言動は、」 餌いらないやつ。 「真田幸村……お前もか」 慶次の言葉に政宗は瞑目し、幸村がムッと唸った。 「そなたこそっ」 *カイザルのものはカイザルに* マツナガ神父の聖書から落ちた写真を、三人はマジマジと見つめた。 上級生のまつ殿に濃姫、お市の方。同じ学年のかすが嬢と一年生のいつき。それぞれのポートレートだ。 「……写真の裏にもびっしり克明に横文字で、何か書いてあるようでござる」 「Ah,これなら俺にも読めるな五人の住所だろ?氏名に電話番号、生年月日・学年……地図まであるぜ。通学路の道順だ」 「……趣味・特技・身長・体重……胸囲……座高……?坊様が女学生の座高調べて何すんだ?」 「……神父というものは一生独身で神に仕えてキヨラカな生活を送るのでござろう?フツウは……」 「……ヒソカに女子高生の写真を集めて聖書に挟んでヨロコブ趣味があるとしたら……そのPriestは普通じゃねえな」 「するってえと……松永はフツウじゃない。……フツウじゃなければ何なんだ?」 人……それを「変態」と呼ぶ。 んにゃ……ちょっと待て早まっちゃいかん。これしきのことで他人さまを変態呼ばわりしては失礼だ。きっと神父様には何か深〜い理由がおありなのだ布教活動の一環としてだな……おそらくそれは宗教的な何かなのだよくわかんないけど……。 礼拝堂の中で沈思黙考する三人はさておいて、門の外。 そこには、『待ち伏せの小太郎』がいる。 小太郎は犬である。 黒い体。風のような動き。毛の影からするどい眼光でにらみつける目。 シベリアン・ハスキーだのドーベルマンだのが混ざって何だか分からなくなった雑種の彼は、ワンともガウとも吠えはしない。 ただ、静かに睨みつけるだけ。 「あ、あれは!」 「風魔の小太郎!」 それだけで聖バサラに通うお嬢さま方は、弁当の残り物を置いていくのである。 門の前で待ち伏せる、風の悪魔。 彼にとって聖バサラは、実入りのいいショバだった。 なのに。ああなのに。 門から表れた三人に、小太郎はびたりと固まった。 まっすぐ前を見る、否、なにも見ていないまん丸な皿のような、いつつの目玉。 そう、三人は考え事で頭がいっぱいだった。 「女学生の写真を集めて頬ずりしよーが聖書に挟もーが、某たちには関係ないと思う」 幸村さんは面倒なことに巻き込まれたくないと思っている。 「今のところ誰にも迷惑かけてないんだし、趣味レベルの無害な変態ならそれは松永自身の問題だよな」 慶次さんは厄介な奴とかかわり合いになりたくないと思っている。 「どーせもうじきItalyに帰る人間だ。このまま黙って知らんぷりしてても良いんじゃねーか?」 政宗さんは煩わしい問題はなるべく避けて通りたいと思っている。 「そうでござる……不用意に事を荒立ててはならん」 「変態を追い詰めるとキケンだよ」 「Yes,逆上して何するかわかんねえぞ」 「やはりイタリア人の問題はイタリア人に何とかしてもおうではないか」 「カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返せってキリストも言ってるしね」 「Italyの変態はItalyに返すのがスジだよな」 そうして悩みは晴れたとばかり、意気揚々と去っていく三人のうしろにポツネンと、小太郎が取り残されている。 ……。 明日は、負けない。 小太郎はてってってっと歩き出した。 小太郎は犬である。 ゆえに、明日が日曜日で、お嬢様方が登校してこないことなど、知るよしもない。 とりあえずここまで
11/09/13 改稿・掲載
初出:memo(2008/09/27〜笑う○○) |