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注意事項 ※映画『WALL・E』とのWパロ ※設定捏造SFパラレル 最後の人間が“船”へと旅立ったのは、25万5302日前だった。 最後の仲間が倒れるのを見たのは、13万1421日前だった。 8万と386回目の、砂嵐が来る。 ガコン。と、音を立ててガレージの扉が開く。 さらさらと砂を落としながら、扉は地面までのスロープを作った。 佐助は乾いた空気に欠伸をした。 埃に乱反射した太陽光が、赤みがかったオレンジ色の髪を照らす。額からなびいて肩にかかる長さのオレンジ色は、透けるような金に一瞬変わって、赤毛に落ち着いた。 昔どこかで聞いたような電子音が、うなじの辺りで鳴った。 「120%、なんてね」 つぶやいて、懐からぐしゃぐしゃの帽子を取り出す。 埃まみれのつなぎと同じ、色あせた緑色。 広げて、オレンジに近い鮮やかな赤毛にかぶる。ひさしをつまんで向きを正す。 意味はない。 網膜を焼きたくないなら、サングラスでも拾ってくる方が早いだろう。 これは、人間たちがあふれ返っていたころからヒトに似せられた姿で働いていた佐助の、癖の一つだ。 今日も日が暮れるまで、働いていられますように。 光に煙る街を見渡して、軍手をはめて、イヤホンのボタンを押す。 「さあて。お仕事、お仕事」 鼻歌を歌いながら乾いた地面に踏み出す。 そびえ立つ巨大なビルの群れと、それを模すかのようにうずたかく詰まれた廃棄物。 動くものは、他にない。 土に返らない廃棄物を圧縮して積み上げる。 順番に、ひたすらに。 イヤホンからは音楽が流れ続ける。 圧縮機に足をかけ、つぶし、並べる。 大型の鉄の箱には顔をしかめた。 「あ〜あ、またこれだよ」 ガラクタの山に登る。 腰に下げた、三枚羽の刃をつかんで、箱の側面を切り落とす。 中を覗き込むと、ひんやりとした空気が流れ出した。 「あれ?これ…」 緑色。 佐助の色褪せたつなぎとは違う。 足場が崩れて慌てて飛び降りる。 「おっと」 平らな地面の上、ガク、と体のバランスが崩れた。 佐助は長い脚を折って、足首を軽く揺らした。 「ありゃ、やっちゃった」 のんきにつぶやいて 足を引きずって、仕事場を離れた。 “倉庫”に向かう。 目的はその中ではない。 そこまでの道筋に、何体も倒れている、人形の姿があった。 体格はどれもほぼ同じ。髪の色と長さは違う。顔は ただ、オレンジの髪の佐助は鼻と頬に、刷毛で暗緑をはいたような印がある。 その一体のそばに座り込んで、つなぎの裾を膝まで捲り上げた。 「左脚。電磁膜解除」 ヒトのそれのような肌色の脚に、つなぎ目があらわれる。 足首を半分外して、小さな部品を 「悪いね、どうも」 パコン、と足首をはめ込むと、つなぎ目が消える。 そして佐助は、また仕事に戻る。 だから、“船”には乗れなかった。 パイロットアンドロイドの一体として乗り込んだ“真田幸村”は、『必ず戻る』と佐助に約束した。 それから25万5521日。 分からない。 けれど、問いかけているうちは、まだ動ける気がした。 「おお?」 ガラクタの中に薄いケースを見つけた。 中には小さな円盤。 青い表面に、傷はない。 「わ〜、音楽ディスクかな?映像ディスクかな?」 へらりと笑ってしゃがみこむ。人間が残した“情報”は数少ない楽しみだ。 傷がないか確かめようとディスクを取り出す。 青い地に、文字と絵がプリントされていた。 裏返せばとろりとした虹色。 そこに。 青い光が、乗った。 帽子のつばを上げて、鳶茶色の目をぱちぱちと瞬かせる。 表返しても、裏返しても、光は消えない。 「何、これ」 空を見上げる。 太陽が霞んで大気に光が乱反射した、いつものくすんだ色。 そうしている間に光はつるりと動いた。 「お?おお!?」 褪せた緑の袖にうつった光を振り払おうと、佐助はわたわたと立ち上がった。 青い光は親を求める子のように猛スピードで動き出した。 「ちょ、待てよ!」 佐助も慌てて駆け出す。 地面の光を追いかける。 急ブレーキをかける。 上を見上げる。 影。 「冗談…!」 きびすを返した。 青い光が集まる。 その印の上に、砂を、瓦礫を、地面を巻き上げながら。 宇宙船。 友人のアンドロイドがパイロットなどしていたから 土ぼこりを払うのも忘れて、崩れた塀の影で目を見開く。 楕円の卵のような本体の、側面の鱗がはがれた。 青い光が現れた。 先刻の、ただの光とは違う。 地面にふわりと降りたそれは遠目にも、佐助もうずくまれば入れそうな大きさの、球体だと分かった。 それこそ卵の形に似て、細い方を下に浮いている。 表面を青い光が 船から伸びた機械の腕が、卵の上に浮かぶプレートに触れて、ボタンを押す。 ポーン…と涼やかな音がした。 それを確認してか、機械の腕がしまわれる。鱗が閉じる。 再び地響きがあった。 宇宙船はエネルギーを噴出したかと思うと、見る間に空に飛び上がり、雲の薄膜を一瞬かき消して、消えた。 佐助は身じろぎもせず、青い卵を見ていた。 船が巻き起こした埃がおさまる。 青い卵が、少しずつ透明になる。 薄い光の膜。 ばさり、と内側からそれをやぶったのは、蝙蝠の羽のようなものだった。 蝙蝠の羽にしては、青みが強い。 その中心にある人影の背に相応しい広さ。 言葉を失った。 縮めていた脚を伸ばしたのは、佐助よりも少し背の低い、細身の、青年型の。 けれど、佐助とは何もかも違う。 うなじにかかる黒髪。ところどころに金茶のつやをのせて、前髪は右目を覆っている。 右目には黒い眼帯。 白い顔に、左目はまだ夢を見ているかのように薄く開いていた。 鼻筋も、薄い唇も、その目元も。 佐助がかつて見たことのない顔だった。 真白い詰襟の、皺ひとつない上下。 腰には左右に、青い鰭のような膜につながれた差物が三本ずつ。 「Arival in Earth,10:00 a.m.」 突然、音が響いた。 少しかすれたハスキーヴォイス。 「 左目が開いた。 金色の瞳が前を向いた。 「……、」 立ち上がりかけた佐助の手元で、小石が転がる。 カラン。 音が響くより早く、金色が動いた。 「HELL DRAGON!!」 佐助が隠れて居た場所に、穴が開いた。 隻眼のアンドロイドは、しばらく黒焦げの壁の穴を見つめ。 「…Han,」 手にしていた刀を腰におさめると、青い翼をばさりと震わせて、飛び立った。 壁の残骸の、影では。 「な、」 オレンジの髪の塵処理ロボットが、膝を抱えてガタガタ震えていた。 影に隠れて追いかける。 アンドロイドは時折、上空から青い網のような光を投げかけた。三日月の輪郭が廃墟をすべる。 何かをスキャンしている。と、佐助は察した。 「追いつけない、か…」 つぶやいて口元を押さえる。 相手は気づく様子もない。ひたすら飛び回っている。 佐助は左手の方の三枚羽を指で探って、スイッチを入れた。 ぶわり、影が広がって、烏のような黒い鳥の姿になる。 そのまま飛び降りれば風に乗った。 「よしよし、…ってあれ?」 見れば、青い翼が視界から消えている。 「あれぇ?別嬪さん?」 どこー?と、先刻の恐怖も忘れて 「……!Goddem!」 声が、思ったよりも下のほうから聞こえた。 干上がった海に並ぶ海運船。 船舶用の巨大な磁気クレーンに、蝶の標本のように青い羽が張り付いている。 「あっちゃぁ…」 作り物の羽は、もがくほど広がってびったりとくっついてしまうようだ。体自体が金属を多分に含んでいるのだから無理もない。 廃棄物の塔にのぼって天辺を蹴る。 オレンジ色が靡いた。 手を伸ばそうとした先で、青い羽根が縮むのが見えた。 金の左目が細まって、引き剥がした右腕が腰に伸びる。 クレーンの磁気盤が粉々になった。 隻眼のアンドロイドはそのまま空中で体勢を立て直し、刀をさらに引き抜く。 両手に三本ずつ。 「MAGNUM…STEP!!」 船舶の巨体に雷が落ちて、連鎖反応を起こすように次々と炎を上げる。 「…お、」 佐助が影の烏にぶら下がって呆然と眺めている間に、細身はドウン、と似合わぬ重い音を立てて地面に降り立った。 白い背中には翼の変わりに、青い鎌風の渦巻く姿のような、紋が浮かび上がっている。 明滅する青。 眺めるうちに、その上の頭がくっとうつむいて、わずかに振り向く。 金色の左目が佐助を見ていた。 「…え?」 六本の刀は未だ彼の両手で、雷をまとっている。 佐助は状況を把握した。 一瞬で跳躍した影、牙むいた口が目の前にあった。 「 「ぎゃああああああ!!」 三枚羽を盾に、烏を消す。吹き飛ばされる。 それでも崩れた壁を足で蹴って、二撃目を避けきる。 廃棄物の塔がガラン…ガラン…と崩れる。 舌打ちひとつ。 それでも攻撃はできない。したくない。 プログラムされた鉄壁の自己防衛。 (あ、そうか) 普通のロボットでない佐助は、はたと気づいて、両手の刃物を手放した。 目の前に白刃がせまる。思わず目を閉じる。 (…死んだかも…) すまねぇ、旦那。 心の中でつぶやいた。 衝撃は、いつまでたってもやってこなかった。 強くつぶった目の裏は未だ明るい。 恐る恐る、目を開く。 それから、青。 いつもいつも、埃に煙っている太陽光が、青年の真白い制服を仄かに光らせているように見えた。 「……」 三本の爪をつきつけて、金の独眼は佐助を見下ろしている。 唇がひらいて、わずかに牙のような歯がのぞいた。 「What is your discrimination name?」 「What is your mission?」 「あ、えー…っと、ごめん。俺様ここの言語回路もいかれててさ」 この言語以外はちょっとしか無理なんだ。 身振り手振りで伝えようとするが、いささか難しい。 青年はわずかに首をかしげ、口を開いた。 「○▽□?***?メイレイ?βυθ 「命令?」 滑り出した言葉の中で、聞き取れたものを口にする。 青年がこくん、と頷く。 「メイレイ」 佐助は途方にくれて周りを見回し、ちらばったゴミをかき集めて、手の中でつぶしてみた。 不恰好な立方体。もう一つ作って、並べる。 「俺の仕事って、こんなだけど…」 青年は、佐助につきつけていた刀をずらして、そのキューブをつついた。 「……」 刀を腰に納めた。ただし、片手分だけ。 それでも佐助はほっと息をつく。 息ついた一瞬で、白い細身はすでに背を向けていた。 「ちょ、ちょい待った!」 「!」 また首筋に、刀。 怯まないぞ、と佐助は己を叱咤して。 「ねえ、あんたの名前は?」 「What?」 眉がきゅっと寄る。刀はぶれない。 「名前だよ、なーまーえっ」 そうだ、と佐助は胸ポケットの ≪SARUTOBI Sasuke≫ 【猿飛佐助】 その文字と自分を交互に指差す。 「ほら、俺様は猿飛佐助。あんたは?」 ボウ、と、佐助のプレートに、青い三日月が映った。 それから、青年の前にも青い光のプレートが浮かび上がる。 ≪Dragon No.1059-DATE Masamune≫ 【竜 千五拾九・伊達政宗】 竜。ドラゴン。 「竜の、政宗さん?」 と、その文字がかき消えた。 ≪One-eyed dragon≫ 【独眼竜】 「独眼竜…」 見れば、彼は眼帯で覆われた右目を指して 「ドクガンリュウ」 それから、佐助を指差す。 「サスケ?」 「…うん」 「サスケ」 「そ、佐助」 竜の名を持つアンドロイドは、子どものように破顔した。 佐助は、25万5521日ぶりに、名前を呼ばれたことに、気がついた。 *続かない* ※この後ふたりで砂嵐に巻き込まれたり、政宗さんが佐助の大事なDVDをぺキッとやって「あ、やべ…」ってなってこっそり隠したりします。 ※おまけ “船”に格納された小船から、竜の卵がおろされる。 それを順番に調べるロボットがいた。 紅い髪と、暗色のゴーグル。黒い鳥の羽根でできた箒を携えている。 青い卵の前で、彼はぴたりと止まった。 「……」 羽箒が風のように舞って、埃をふき取る。 「……」 青い卵の次は、橙の。 「……」 卵というより、モップだ。 「……!」 許しがたい汚染状態に、彼は 「あれ、なんか悪寒…って言うか殺気…?え、ちょ、何あんた、ってえええええ!?」 襲い掛かる清掃ロボに、橙のモップとみなされた佐助は、悲鳴を上げた。 *こっちも続かない* |