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忍びーズの日々これ手乗り生活。
(ゲットだ面白武器編) パチン。 鉄の鋏が鳴った。 「…これで良し、と…」 「……」 小さく呟かれた声の優しくかすれた響きに、こっくりと頷く小さな頭。 布きれの大海原。波間に手を差し伸べ、その人は満足げに笑った。 今日の風魔さんは何か違う。 「……」 「…んん?」 いつもどおりの赤毛に目元の隠れた兜、紺と白の忍び装束。 結ばれた口元に何の表情も感じさせず、沈黙の行を守って 「……」 その沈黙の中にひしひしと滲み出る、この喜色は何だろう。 最初は何を考えているのか判断しづらかった風魔小太郎の思考の傾向も、そろそろ分かるようになってきた。と佐助は思っていたのだが。 「何か伊達さんに、美味しいもんでももらった?」 「……」 首を振りもしない。 その代わり、パア、と両腕を広げて見せられた。 別に何も持ってはいないようだ。 「……」 「……」 むむむ、と沈黙した佐助に、小太郎はくるりと背を向けた。 その背に、色とりどりの桜んぼうの生えた、大きな布鞠。 否、これはおそらくその辺りの女中の裁縫箱にも収められているであろう 「……」 「何かまた蜜柑とか毬栗とかでも背負ってんのかと思ってたわ…」 「……」 「ごめんなさい。俺が悪かったから待ち針構えないで!」 『対刀「針」』 つまりは風魔小太郎の。 「ほう、貴様の武器だな」 ひらり、と光がすべり込むように、かすがの金の髪が現れた。 「凄いじゃないか…よく出来ている」 何が凄いって、大きさが尋常ではない。 これがもし本当に裁縫道具の一つなら、ごく自然な大きさだ。 しかし今の彼らは こうして屋根裏で会談している三人の姿も遠目には鼠と区別がつくのかどうか。 「……」 小太郎によれば、話は一刻前に遡る。 青、紺、水藍、朱、紅、桜。萌葱に浅葱に金糸に銀糸。 「……」 彩と錦の海に迷い込んで、小太郎は周りをぐるりと見回した。 「……」 ぺたり、自分の黒鉄の兜に手をやって、銅色の髪を思い出して、この色彩の中に異質に佇んでいる事を認識する。 「……、」 そこで小太郎はおもむろに周りのはぎれに潜り込んだ。 くるくると淡い桃色を選んで体に巻きつけると、くしゃりと丸められたただの布のであるかのように気配を絶つ。 そうして、布の下をのそり。のそり。 人の気配は無かったが、いつ誰がどこに現れるか分からないのが奥州城の常であった。 城主の右目とさえ呼ばれる忠臣は仕事を人任せにせずあちらこちらと渡り歩くし、従弟だとかいう若者は平気で色んな部屋に飛び込んでいく。神出鬼没の側近ももう一人いて、この辺りは伊達三傑と呼ばれるほどだから城の中を自由に動けるのも分かるが、下の兵さえふりーだむなのだ。奥は奥で と言うわけで、あくまでも気配は消して、布の海の果てを目指したのであった。 (……?) と、前方に、布では無い何か。 棒のような物が斜めに立っている。 布を持ち上げて確認すれば、すべすべした銀の棒。上に行くにつれて細く、下には穴が開いていた。 何の仕掛けも無い針。けれどこの角度で布に埋もれていては、うっかり布に巻き込まれて誰かの指を刺したかもしれない。 小さな手につかんでしげしげと眺める。 と、静かな足音が近づいて。 来たと思った次の瞬間には畳がすらりと開く音がした。 「誰かいるか…?」 わずかに掠れた、若い、けれど落ち着いたその声。 この奥州城で、当然のようにどこへでも現れて、しかも平時には忍びや獣にも気取られぬほど自然に気配を抑えている、その人。 「There is nobody here?」 けれど部屋に寄らず、彼のいる場所だけは他の誰にも荒らされない。 人気の無い部屋よりもこの人の傘の下の方が、確実に安全だ。 「……」 小太郎はもぞりと布の海から抜け出した。 その僅かな気配に一つ目の視線をくれて、細めて笑う蒼い羽織。 「Ah,風魔か」 奥州筆頭、城主の伊達政宗公である。 「……」 こっくり。頷くともふりと顔に布が当たった。 あからさまに人影の無い部屋で誰かを探していたのだから、初めからこの手乗り大の忍びの誰かとあたりをつけていたのだろう。 「Ratにしちゃあ気配が薄いと思ったぜ。…ちょっと待て、動くな」 「?」 布が広げられた端で足を止め、膝を下ろしたその袖には、桐の箱が抱えられている。 「Sorry,この辺りでさっき針、を 隻眼が瞬きした。 「……」 これか?と小太郎の両手に抱えられた銀の棒。 「それだ。Niceだぜ風魔の」 ニイと牙見せて笑う青年が手を差し伸べる方、錦の海を土足で駆けるよりはいっそ飛んでいってしまおうかとぴょんと飛び上がった。 宙に浮いたところを、ひょいと捕まれる。 今の小太郎には飛んでいく距離でも、政宗公には腕一本だ。 「Thank you.」 桐の箱には布きれと糸、丸い針山。 「……」 そこに縫い針をぷすりとさして、生成りと薄藍と、数色縫い合わせた鞠にぺとりと触る。 色は違うが小太郎に背負えそうな大きさといい、丸みといい、彼が子ねずみのような大きさになる以前使っていた忍刀の鞘と瓜二つだ。 より正確に言えば、小太郎の使っていたそれが何故だか巨大なまち針、鞘は針山としか思えない謎の武器だったのだが、謎の武器であるがゆえに大層貴重なものなのである。 「…なんだ、興味あるのか?」 「……」 小田原の老主がブツブツ言いながら買ってくれた品だ。あの主は高い賃金がどうの先祖伝来がこうのと小太郎に捲くし立てては高価な褒賞をくれたりする。 「そうか、懐かしい品か何かか」 「……」 小太郎が針山をなでるのをどう思ったか、そう外れてもいない解釈を口にして、政宗公はうなずいた。 「Hey,風魔。ここだけの話だが」 「…?」 ニヤリ、と笑う顔に首をかしげる。 「俺の趣味のひとつに裁縫ってのがあるんだ」 「……」 小太郎ははたと桐の箱に視線を向けた。 独眼竜の多趣味は有名だが、これが、本人の裁縫箱とは。 コホン、とそれらしく咳払いをして、政宗公は続ける。 「女たちの仕事を横取りはできねえが お前さえよければ、針探しの礼に、作ってやろうか。 「……!」 小太郎はうなずこうとして、それでは足りない気がして、パア、と両腕を広げて見せた。 「…つまり、それは、独眼竜が作ってくれた ただの針刺しなのか? 一連の話を聞いていた 「……」 こっくりと小太郎はうなずく。 針山の待ち針の、色とりどりのぽっちりが動く。 かすがは沈痛な面持ちで、眉間に指を当てた。 その小さな手の影から、そっととなりの橙頭をうかがい見る。 かすがと同じく風魔小太郎伝説を聞いて育ったはずの、猿飛佐助は。 真剣な顔をして、すっくと立ち上がっていた。 「おい、」 「ごめん、ちょっと俺行ってくる」 そう言って、一瞬にして姿を消す。 どこに?と聞く間はなかった。 聞く必要もなかった。 『竜の旦那!俺、実はこんな姿になる前に、旦那の絵姿が入った青い円盤を持ってたんだけどね 「…ここに瑠阿があれば…」 ふたりまとめて沈めてやるのに。 釣り道具に似た苦無を思い出して、かすがは拳を握りしめる。 小太郎は、屋根裏の鼠をつかまえて、パア、と両腕を広げて見せていた。
10/06/19 掲載
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