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戦国の忍び達は手に乗る大きさなので略して手乗り忍びーズと。
(睦月のいつか編) ゴッシュゴッシュゴッシュゴッシュ… と、そんなふうに表したくなるような音を頼りに、かすがは奥州城の屋根裏に上った。 慣れた様子で屋根裏の闇の中を走り、屋根板の端の端まで駆け抜ける。金色の髪が翻って、きらりと光った。 なぜこの上杉が軍神を敬愛し崇拝してやまないくノ一が、奥州にいるか。暗殺か偵察か。否、彼女の姿を見れば説明するのも今更だろう。 ある日突然体が手に乗ほどの大きさに縮んでしまった忍びのかすが、佐助、小太郎は奥州が黒はばきに知恵をかりるため…以下省略。 かすがはため息をついた。小さな足で鼠以上の早さで駆けることに慣れすぎている。 気のせいでなければそろそろ一年経つかもしれない。 (一年…!?) かすがはざわりと肌を泡立たせ、小さな手で人形のような体を抱いた。 (ああ謙信様…このかすがは一瞬たりとも貴方様を忘れることはできません…離れているこの辛さ、一年などどうして耐えられたのか…!」 「…とりあえず正月に帰郷したんだから、離れてからまだ三日しか経ってないんじゃないかな〜と俺様は思うわけよ」 ゴシュゴシュゴシュ。 「……」 ゴシュゴシュ。 四角い布を手にしたまま橙頭が小さな肩をすくめ、紅毛が黙したまま頷いた。 かすがと同じように頭は金柑か体は蜜柑かという大きさの二人の忍びは、奇妙な音をたてながら屋根裏の雑巾掛けに勤しんでいる……わけではない。 屋根板の上に横たわった半月型の、今の彼らの背丈ほどもある物体。 竹材から切り出したそれは、比較対称がこの手乗り忍び達でさえなければ 勿論彼らが使うのではない。 いつも世話になっているこの城の主へ、ささやかな贈り物である。 「そんなに悩まなくても、去年は東の方は情勢も安定してたことだし」 ゴシュゴシュゴシュ。 「……」 ゴッシュゴッシュザリザリザリ。 「風魔さん、削りすぎ」 「ええい黙れ!貴様等がそんな風に現状に迎合しているから我々はいつまで経っても元の体に戻れないんだ!!」 キー!!と淡く輝くような金髪を逆立てるくノ一の姿に、橙頭こと真田忍隊手乗り長・猿飛佐助は。 (小さくなってもあの日ってあるのかねえ?) とその思考を読まれた日には戦極ドライブでバサラ技をかまされそうな事を考えた。 一方、紅毛こと北条家伝説の雇われ忍び・風魔小太郎(手乗り)は。 「……」 そ、と何処からともなく小魚を差し出した。 今の彼らにはメザシ並の大きさだ。 「…お前達が…」 金髪の声が低く、震える。 「お前達がそんなだから!独眼竜に!『小太郎が喉に餅詰まらせないか心配なんだ、どのくらいのsizeで焼いたら良いと思う?』だの『武田の忍びは変に世話焼きだから、任せといたらあいつが餅焼き続けて仕舞いに火鉢に落ちそうだ』だの!本気の目で心配されるんだ!!」 忍びの誇りがズタズタだったらしい。 涙目のくノ一に、橙と紅は慌てて手ぬぐいを探した。 手の中には布ヤスリしかない。 「……」 「ダメだから!それ差し出しちゃ駄目だから!そうだ、あれ持って来て!」 了解とばかりにすちゃっと手を上げて、小太郎はその名の如く風のように飛んでいった。 「落ち着けよかすが、別に俺様と風魔がちょっと忍びとして誤解されてても、上杉には関係ないっしょ?いつも『あいつらと一緒にするな!』って言ってるじゃない」 へらりと笑えば淡い金髪の下、白い肌を泣きそうに紅潮させて、くノ一は顔を上げる。 「そうだ。上杉の忍びは違う…独眼竜も、それをちゃんと分かってくれていると思うか?」 「…当たり前でしょ!大丈夫!いや〜軍神のところの忍びは違うよね〜俺様と同郷とは思えないわホントっ」 「貴様…馬鹿にしているのか…」 「してません!」 くノ一の手にある苦内に、佐助は橙毛を逆立たせた。 とそこに、てててっと駆けてきた影は小さな爆弾兵…もとい、何やら丸いものを背負った風魔の小太郎だ。 「良いたいみんぐ!ほらかすが、魚は風魔に返してこれでも食べようぜ」 ぽん、と佐助が叩いたのは丸くて瑞々しい、彼の髪の色より明るい、甘そうな蜜柑の実だった。 「…まあ良いだろう」 美容にもなかなか宜しいその果実に、かすがは苦い顔を収めぬまま、それでも苦内を腰元に収めた。 「……」 首を傾げつつ蜜柑の皮をべりべりと剥く小太郎に、佐助はシーッと口に指を立てて見せた。 「食い物は食い物でもこういう時は菓子にしとくんだよっ。甘くなくても煎り豆とか!」 小魚は止めておけと小声で教えつつ、自分達の布団になりそうな橙色をはがしていく。 屋根裏に甘く清涼な匂いが広がった。 蜜柑の皮むきという力仕事を二人にまかせたかすがは、ふと何事か気づいた様子で、磨かれた竹の櫛に布を被せる。 「かすが?」 「蜜柑の汁で汚れたら困るだろう」 気配りを見せるくノ一に、佐助はへらっと笑った。 「形も紋様もかすがの考案だもんね」 独眼竜風に言うならばdesign、現在の彼らにふさわしい言い方では、設計。 竹の櫛は手乗り忍び三人からの贈り物なのだ。 「!…何をにやにやしている!」 「いや別に〜?ほら、食べろよ」 「偉そうに…!」 まだ少しむくれた顔で、かすがは蜜柑の皮の上に腰を下ろした。 かすがに半分。 小太郎は半分引く一房。 佐助は枕のような一房を、両手で抱えて食いついた。 『独眼竜も、』と彼の通り名を口にした時の、泣きそうなかすがの顔を思い出す。 (ああ、ヤバイかも) 今年はまた一人、もしかしてもっと前から、恋敵が増えてたりして。 (竜の旦那ってば、天然なんだから) 蜜柑の座布団の上で、蜜柑色の頭がため息に揺れた。 手乗り人間、しかも忍びなんて怪しげな生き物のために、居心地の良い場所をくれる、奥州の武人のために。 餅なんて頼まれずとも年中妬きっぱしだ。 噂の伊達政宗が『餅が焼けた』と呼びに来るまで、あと数瞬。
08/02/27 掲載
初出:一月にとらじ。さまへ捧げ物というか押し付けた物でした。 |