戦国の忍び達は手に乗る以下略。(持ってけ手乗り天孤編)







※外伝ネタ






「そういう訳でね、決してコレは俺様の趣味じゃないの。お館さまの命なの。俺だって恥ずかしいんだよ本当だよ」
「ほーう」
 パタパタと平手を振ってみせる狐面の、そこだけ晒された口元が一生懸命に動いている。
 胡坐に肘を突いた隻眼の殿様は、畳の上にちょこんと正座した迷彩装束の狐仮面の方に身をかがめた。
「じゃあ何でつけてるんだ?」
 武田の道場ではない、この奥州城で。
「いやだってつけないのも流石に悪いかなあって…わざわざ作ってくれたんだし」
――こんな、小さいのをさ。
 手のひらに乗るほど小さな体の忍びは、頭の大きさも規格外に小さい。育ちきらない蜜柑ほどの大きさだろうか。
 その小さな橙頭いわく、武田軍の秘密の修行のために使われてきた仮面――つまり彼が政宗と釣合う体だった頃の面と今つけている面は、縮尺を変えただけでそっくりそのままなのだという。
 確かにそんなものが遠く甲斐から送られてきたら、ちょっと感動するかもしれない。
 奇病を理由に城を離れた忍び隊の長のために、特注で作らせたに違いない面。
「……」
 黙りこんだ小さな忍びの、狐面の下で動かない口元。橙色に近い赤毛。
 こうして目元を覆って黙っていると、口を利かないもう一人の赤毛を思わせる。
 ちらりとみればその紅赤毛は稲荷寿司と格闘中であった。彼の今の体格からすれば手ぬぐいより大きい油揚げを両手で持って、端を噛み千切ろうとしている。
「……」
 口の使い道は喋ることだけではないのだ。
 もう一人、同じく手に乗ってしまうほど小さい金髪のくノ一は、稲荷寿司の中の米を膳に取り分けて食していた。
「Hey,かすが?」
「何だ」
「機嫌が悪いな」
「……」
 沈黙にも様々な意味があるものだ。
 しかし小さいながらもなお美貌を誇る白い面は、すぐに上を向いた。
「謙信様が、以前甲斐に塩を送られたとき」
 細い小枝の箸を置いたのはそれを折らない為かもしれない。
「荷にひょっとこの面を包んで入れておられたのだ…!」
 武田軍が憎い、とその顔に書かれている。
「Oh…流石は謙信公、洒落たマネするじゃねぇか」
 ぴゅーぅと口笛を吹いて笑んでみせると、敬愛を通り越して心酔している主人が褒められたうつくしきつるぎの頬は、一瞬で薔薇色に染まった。
「…ま、まあな。謙信様の御心が素晴らしいんだ。勿論」
 里心、というものは忍びにもあるのだろうか。
「……」
 未だに黙りこくっている橙赤毛は、面のせいか表情を読むことも出来ない。
 ずい、と身をかがめると、人形のように小さな体の上に政宗の影が落ちた。
「佐助…」
――どうしよう…」
「?」
 よく見ると、正座した体がフルフルと震えている。

「この仮面が送られてきたってことは…俺もこれつけて道場に出ろって事だったりして…」

『真田源次郎幸村、いざ参る!!』
『ようこそ我が道場へ――ぎゃっ』
 ぷちっ。

 猪突猛進を絵に描いたような若武者が目の前のmini忍びを踏み潰す様は、政宗の脳内にもありありと想像できた。
「well,…but,それは流石に、」
 無いだろうと政宗が言い切った所で、それが有り得ることだとすれば誰よりもよく知っているのは武田の忍びの方なのだ。
「……」
「……」

 死ぬなよ、狐マスク。

「違います。何ますくって…俺様はね」





忍風迅来 天孤仮面(ミニ)






「…なんですよ。一応」
「I understood, 稲荷食うか?狐」
「いただきます」




   +++






 仮面の下で冷や汗ダラダラ。

 かすがちゃんの赤面の理由の半分は政宗様のせいだと良いと思います。

 小太郎は油揚げの端を咥えてびよーんと伸ばして噛み千切ろうとしているとかいう絵面で。


08/01/18 掲載
初出:memo(07/10/25 持ってけ狐マスク。)