「今日はあんたを殺しに来ました」
 と、闇の中で橙赤毛が言う。笑いながら言う。
 政宗は煙管の吸い口をカチリと噛んで、唇を三日月にたわませる。
「…Han?」
「頸を掻き切って、真っ赤な血で青い着物を汚して、死体は山奥に埋めてあげる」
「首は持ち帰るんだろうが」
――そうだね」
 でも、誰にも見せない。
 のんきに声は言う。ひやりとした闇の温度と柔らかさ。
 フウ…と政宗は煙を吐いた。
 ふと、思う。
――これは、夢か?
 暑さも寒さも感じない。ひたりと閉じた部屋の、動かない空気。
 忍びが竜を屠ると言う。
 それも、主の元に首を持ち帰るためではないと言う。
「首も見せずに、俺を殺せたと言って誰が納得する?」
「だから、独眼竜の着物を、血でね」
 カチリ、とまた政宗は、煙管を噛む。
「…つまりアンタ、何がしたいんだ」
「猿飛佐助もそのまま姿をくらます」
 煙を割るように、烏の爪が竜の首に触れた。
――やはり、これは夢だろう。
「竜の血はもう用意できてるんだ」
 と、睦言めいた囁き声。
「だから、」
 首から下も持ち帰らせて。
 烏の爪が煙管を奪う。
 自由になった唇で、その声で、答えてくれと言わんばかり。
――夢だとしたら。
(もう少しだけ、覚めてくれるな)
 政宗の唇が、柔らかく闇を食む。
(夢だとしても)



「……駆け落ちの誘い方としては、血なまぐせぇな」
 しょうがないじゃん、と闇烏はのんきに笑った。













12/11/08 掲載
初出:memo(2010/05/14)