5A式はエイプリルフールにくしゃみする









「Hey,知ってるか?武田の」
「…何その嫌な笑顔」
「今日はApril foolっつって、嘘をついても許される日なんだぜ」
「何その嫌な笑顔!」
「ってなわけで、」
 にい、と唇を曲げるその人の、牙のような八重歯はひどく無邪気な白い色。
「たった今、お前のことが好きになった」
 一瞬見とれて、見開いた目をごまかすように瞬いて、まぶたを伏せて。
――知ったこっちゃないよ」
 やっとの思いで呟いた。
 嘘だった。

――本当は、嘘でもいいからそんな笑顔で、そう言って欲しかった。



















「ねえまさむね、今日ニュースで、躑躅崎エリアに竜巻がおきたって言ってたよ」
 5A式が出しぬけにそう言った。
 ダテ博士はCPUの画面からチラリと視線を向けて、絨毯の上で本を読んでいるオレンジの髪の少年を見た。
 少年の――サスケの目は、活字の大きな本に視線を落としたまま、動かない。
「ほお」
 気のない答えを返して画面に目を戻せば、追いかけるように続く言葉。
「あとチカベさんがこっそり巨大ロボを作ったって」
「Then?」
「あとあと、毛利さんが新興宗教に洗脳されたんだって」
「And that's all?」
――サナダの旦那は水に浮かべた棒でスキーみたいに進めるって」
「Oh,奇遇だな。俺は水の上を走れるんだぜ」
 笑いながら振り返ると、サスケは本から顔を上げてぷうと頬を膨らませていた。
「ぜんぜん驚かない?」
「悪いな」
 ニイと意地悪く唇の端を吊り上げれば、きゅっと眉根に皺が寄る。
――跡にならなけりゃいいが。
 子どもの柔い皮膚を思いながらダテ博士は画面に向き直った。
 と、後ろからぽつりと声が聞こえた。
「…たった今、まさむねのことが嫌いになった」
 政宗は、一瞬左目を見開いた。
 キーを打つ指が僅かに震えた。
 小さく息をついて振り返ると、サスケは視線を落としてぎゅうと眉間の皺を深めている。
 政宗は椅子を立つと、その隣に腰を下ろした。
 それから、できるだけ冷たい声を探した。


「俺はたった今、お前のことが大好きになったよ」


 鳶色の虹彩が真丸になって、ゆっくりと顔を上げる。
「…それ、うそ?」
――頷いたら泣くだろうか。
 一瞬試してみようかと考えがよぎって、政宗は苦笑した。
 たっぷり間をおいてから赤味がかった橙色を撫でて、前髪を後ろに流した白い額に、こんと自分の額を合わせて。
「“たった今”じゃねぇからな」
 睫が触れるほど近くで瞬いた。
 顔を離せば、子どもの顔が怒りでか何のためか、サアと朱に染まった。
「お…」
 頭ごと腹に飛び込んできたオレンジ頭を受け止めて、政宗はひっくり返りながらケラケラ笑った。
「おれのはまるごと嘘だからね!」
「Ah,そうかい」
「エイプリル・フールなんだから!」
「そうだったっけなぁ」
「もっと早く言ってよ…!」
「すぐ言っただろ?」
 もっと早くだよっ。
 言葉は政宗のシャツでくぐもって、涙声かも分からない。




……そうか。それならもっと早く、あと千年くらい早く、言ってやればよかった。

















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09/08/25 改定
初出:09/04/01エイプリルフールtop+小ネタ