第八緑地居住区“相”、十二月十七日。



『大切な人にクリスマス・カードを送ってみませんか?』
 流麗な文字が躍る画面にカーソルをあてるだけでは飽き足らず、「これこれ」と指さしてサスケは笑った。
「こういうの、作りたいんだ」
「……」
 小太郎がじっとそれを見つめた。
 目の辺りを幅広のゴーグルで覆った小太郎の視線は、実際どちらを向いていてもおかしくないのだが、その顔の向きはコタツの上に置かれたネットテーブルの画面を凝視しているようにしか見えない。
「下げていい?」
「……」
 こっくり、と頷く。
「音声吹き込むチップって、開くたびに音がするのもどうかなーと思うんだよね。あ、小太郎が使いたければ音楽系のチップシールもあったよ」
「……」
 ふるふる、と首を振る。
 紅赤毛が揺れた。
「文字とかイラストとかのテンプレートはいっぱいあるんだけど、プリントアウトしたのじゃ波型のAIにも作れるとか言われちゃうかもしれないしー…いや、まさむねじゃなくてね、タワーの方の人がね。大人の事情ってやつ?」
 サスケがひたすらしゃべるのに、小太郎はこくこくと頷いている。
 サスケは小太郎がしゃべらないことに慣れているし、小太郎はサスケがよくしゃべることに慣れていたので、傍目には一方的に見えるやりとりも実にスムーズだ。
「と言うわけで」
 こっくり。
「はさみ」
 鋏。
「のり」
 糊。
「フィルムシート」
 紙。
「ペン」
 筆。
「で、がんばろう」
 小太郎は少し考えるように、沈黙した。
――むろんここで、いつも沈黙してるじゃん、などと言ってはいけない。
 少し待て、と言われたようで、サスケは首をかしげた。
 静かに立ち上がって部屋の隅にいった紅赤毛は、棚から箱を持ってきた。
「……」
 へえ、とサスケは感嘆の声を上げた。
 絵の具、カラーインク、ペン軸と数種類のペン先、カッターナイフ、ペンシルナイフ、シリカ接着剤――文房具屋さんで一揃いさせたようだ。
 けれどどれも新品ではない。
「これ小太郎の?」
「……」
 小太郎はわずかに首をかしげた。
 ペン軸には北条、と書かれて、つづく名前の部分は磨り減っている。
「ふうん。でも今は、小太郎が使ってるんだよね?」
「……」
 こっくり。
「器用だもんねー小太郎」
「……」
「よし、じゃあ改めて」
 がんばろー。
 ……。
 小さいこぶしが二つ、ぎゅっと握って上を向く。



「何ぢゃ、年賀状ではないんぢゃな」
「え」
「……」
 できあがったカードにメッセージを書き入れようというところで、ドアを開けたのは白いひげの老北条博士だ。
 枯れ木のように痩せた体に薄藍のセーターを着て、左手にはバインダー。
 右手には何故か、紫の芋。
「はあ。クリスマスカードですけど…ホウジョウ博士」
 そんなことより、そのさつま芋は。
「ほれ」
 サスケの手にごろんと手渡された。
――冷たい。
「生ですよ!」
「近頃の若者は芋判も知らんようぢゃのう」
 フン、と鼻を鳴らす北条博士に「えええ」と戸惑うのはサスケばかりで、小太郎はさっさと一通目のクリスマスカードを封筒に入れている。
「まあ良い。座らせんか」
 詰めろ詰めろと萎びたような手が振られるのに、二人はずりずりとコタツ布団の端によって場所を空けた。
「使うぢゃろ」
 北条博士が開いた分厚いバインダーの中は、古びた切手がずらりと並んでいる。
 今では発行されていない、細かな絵柄の入ったものだ。
「……」
「いいんですか?」
「駄目ぢゃったら見せてやらんわ。伊達の小倅に似てかわいくないのう」
 と、北条博士がサスケの――甲斐原理統合5A式の作り主の名前を出すので、一瞬唇を尖らせてしまった。
 その肩を小太郎が叩く。
 小さな橙頭と紅赤毛は顔を見合わせて。
「ありがとうございます」
「……」
 そろって深々と頭を下げた。
『北条の爺さん、へそ曲げると長いからな』
 とは、先人であるダテ博士のお言葉。
「わしの分もあるのかの」
 早くも相好を崩した老博士のそばで、小太郎が嬉しそうにカードを隠すのが分かってしまえば、サスケにはもう何も言えない。



 クリスマスの八日前のことである。


















U.C.159 Dec.17















=閃国BASARA=top≪






09/12/23 掲載
初出:09/12/17〜メルフォお礼頁