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「ハッピーバレンタイン」 「…What?」 頭の上から降ってきた声に、ダテ博士は座ったまま頭だけ上向いた。 オレンジの髪の優男が、へらりと笑ってダテ博士を見下ろしている。 「ハッピー・バレンタイン」 はい、プレゼント。 そしてダテ博士の唇に、ひんやりした何かを押し当てた。 「おま、…っ」 口を開ければころりと落ちる。 舌に冷たい丸いものが、ココアの香りからとろりと溶けて 「……」 「おいしい?」 「…ん」 小さくうなずくと、オレンジ頭は笑みを深くして。 ちゅ、とダテ博士の口の端にキスをした。 マサムネ・T・ダテ博士は若干十五歳の天才少年である。 そしてこのひょろひょろと背の高いオレンジ頭は、ダテ博士が作ったヒューマノイドである。 甲斐原理統合5A式、通称『サスケ』。性別XY。 以上の説明からふたりが親密な関係であると言えなくもないが、同時にバレンタインにチョコレートを贈ったりキスをしたりする間柄でもないことを察していただきたい。 「だからって容赦なくひっぱたかなくても…」 「うるせえ。Shut up」 「あーあ、赤くなっちゃった」 「雪で冷やせ。いくらでもふってるぜ」 聖バレンタイン、恋人たちの日。 例年BASARAタワーの女性陣からチョコレートの猛攻をうけるダテ博士は、寒いのをいいわけに研究室に引きこもり 「いねぇと思ったらそんなもん買いに行ってたのかよ」 膝にのせた大きな本をめくりながら、ふりかえりもせずため息をつく。 「マサムネ博士のためですから」 返る声は笑いを含んで甘かった。 成人体として作ったのだから当たり前だが、サスケは声も大人びて柔らかい。 政宗は憮然として本を顔に近づける。 「おまえが面白いだけじゃねーか」 「チョコきらいだっけ」 「…別に」 「じゃこういうのは?」 チョコレートとは違う甘い香り。 本をわずかにさげれば、目の前には。 「……サスケ」 「はい」 「お前これ持ってショッピングモールから帰ってきたのか」 「マサムネ博士のためですから」 オレンジ頭が笑う。 ジーザス、と政宗は目をおおった。 この何か勘違いをしたヒューマノイドは、背が高い。赤みの強いきれいなオレンジの髪に、整った顔をしている。何しろダテ博士がそう作ったのだ。 せっかく静かに過ごそうとしていたのに、しばらくはあちこちで言われるだろう。 『5A式がバレンタインに薔薇の花束抱えて歩いてましたね!』 そもそもこのヒューマノイドは、バレンタインデーを何の日だと思っているのか。 「うけとってください。マサムネ博士」 サスケはへらりと笑って、なおも花束を差し出してくる。 「お前、」 「はい」 「…歩いてて、女からチョコもらったりしなかったか?」 鳶色の目がきょとんと見開かれた。 「女?」 元来の意味はさておきこの『閃』では、女性が友人知人から想い人にまで、気安いふりをしてチョコレートを贈る日だ。 甘党で律儀なサナダ博士や男女問わず人望のある技師の長曾我部元親、タワーでも有名な博士の元には否応なく色とりどりの包みが集まる。 「Ah,なんつーか、Valentineってのはだな…」 ぽふり。 ピンクの薔薇が政宗の唇をふさぐ。 「マサムネ」 こつん、と政宗の額にサスケの額があたる。 「いくら物が食べられても、 卑下するような声ではない。その目は、優しく笑っている。 「…んなこと、」 「俺様は、マサムネからもらえたらそれで十分」 ね?と、いつのまにか花束が納められた政宗の両手に、長い指が重ねられた。 「あ、や、おれ、チョコなんて用意してねぇ 「そう?」 じゃあこっち。 歌うようにつぶやいた唇が、未だ甘い味の残る唇に近づこうとする。 政宗は逃げ場のない椅子の上で、ぎゃあ!と叫んだ。 「Stop!わかった!Hot chocolateいれてやる!」 「あれ材料ココアじゃん」 「一緒だろ!」 オレンジ頭をぐいぐいとおしのけて、政宗は花束を抱えたままキッチンに逃げ込んだ。 切れ長の目の、大人びた顔立ち。紅に近いピンクが合う、白い肌。チョコレート色に近い黒髪。 ひんやりした絨毯の上にしりもちをついた5A式は、耳の紅い政宗を見送って。 「…似合うなあ、マサムネに薔薇」 苦労したかいがあったね。 と、こっそりと笑った。
12/04/25 掲載
初出:memo(11/02/15) |