sweet life













 1.ショコラの寛容


 何を作ろうか、迷ってなかったと言えば嘘になる。
 卵をたっぷり使った焼き菓子か、卵形の砂糖菓子か。
――最近、迷う事が多い。
 一人で作業をするばかりだと、賑やかな事が好きな政宗は少しだけ、調子が出ない。
 まるで一人きりというわけでもなかったが。
――クリームチーズの気配がする。
 政宗は肩の力を抜いた。
 まるでクリームチーズのお化けか何かが出てきそうな言い様だがそうではない。
 ただ匂いのようでありけれど実際に匂うわけではない感覚を、他にどう考えれば良いのか政宗には思いつかなかったし、考える必要もあまり感じなかった。
 チョコレートを注意深く湯煎にかける手は止めない。
 柔らかくて酸味があって、ひんやりと冷たいクリームチーズに似た雰囲気を持っているそんな人間は、政宗の周りに一人しかいないのだ。
「だーれだっ」
 なので、突然後ろから伸びた手に目隠しをされても政宗は別段驚かなかった。
「Ah-…佐助、作業の邪魔だ」
 少し冷たい、細い、女の指。
 毎日酷使している政宗の手より、少し骨ばって指の長い手は、けれどすぐには離れない。
「佐助さんは佐助さんでも今日はちょーっと違うんだなこれが」
 耳の上に軽く押し当てられた顎が声を伝える。
 変わらない速度で手を動かしながら、自分より頭半分背の高い彼女をあやすように政宗は薄い肩をすくめた。
「Oh I see.じゃあ後ろは向かないから手だけ離せ」
 上機嫌な声にそう請け合ってやると、指は素直に政宗の肩口に降りる。
 日ごろの信頼関係の賜物と言うべきか。
――信頼関係と言うより、互いにちょうど良い距離がぴたりと同じだったというだけか。
 引き際を心得た両手が肩に乗る、その重さが心地よくて、政宗はやっぱり振り向かなかった。
 猿飛佐助というこの女らしからぬ名前の女は、伊達政宗というこれまた女らしからぬ名前の彼女の――血縁ではなく、友人でもなく、腐れ縁と呼ぶには付き合いのまだ短い――同居人である。
「これは?ガトーショコラ用?」
 覗きこむように左肩に顎を乗せられれば、振り向かずともオレンジ色に近い赤毛が目の端に映った。
 右目が見えない政宗の死角をとらないのは、気づかいと言うより無邪気な甘えに思えて、政宗はあやすように、
「卵をつくるんだよ」
 と答えた。
「明日はEasterだからな」
 トロリ、とヘラから蕩けたチョコレートを落とせば、ボウルの中に線を描いて消えていく。
 一度冷やしまた溶かして、銀の卵型で上半分下半分と型をとれば、つややかな黒い卵の殻が出来上がる。
 それにクリームを詰め円く型抜いたスポンジやらムースやらを詰める予定だ。
(オレンジタルトの飾りにするのも悪くない)
 熟した橙だの柿だのといった実を連想させる色に、あくまでも目は向けないまま政宗は考えた。
「イースターだからね」
 顔の横でクスクスと笑う気配がする。
 政宗は、ふと眉間にしわを寄せた。
「お前…まさかBanny earsでもつけてんじゃねぇだろうな」
 先ほどから、目の端に映る赤毛の面積が大きいような気がするのだ。
「惜しい!バニー耳はつけてないんだ。でも明日用なんだけど」
 声の明るさに嫌な予感がつのる。
 が、イースターバニーをやる気でなければ他の何があるというのだろう。
 政宗はしばし考えて、ボウルを湯煎から引き上げた。
「All right,give up」
 トン、と作業台に下ろして両手を上げた。
「降参?」
「ああ」
 じゃあ見ていいよ、とのたまう声は柔らかくて、幾つか年上の相手のはずなのに政宗の方が姉のような心持にさせる。
 だから、つい眉間の皺もといて、振り向いた。
「じゃーん!」
「……」
 振り向いて、絶句した。
 胸の開いた黒いボディスーツと黒いタイツストッキングに、黒いハイヒール。佐助の、痩せてるくせに胸は標準以上ある、と政宗が常日頃から思っている体に、ぴったりと黒をまとっている。
 手首には白い袖だけがカフス釦で留められ、首元も白い襟に蝶ネクタイがつけられて――シャツ本体が無いのに襟と袖首だけが何故あるのだと、見る者に疑問を抱かせたいわけではないのだろう。
 これでウサギの耳と尻尾を装備すれば、どこかの盛り場で見られそうないわゆるバニーガールの衣装なのだが――
「…Fox?」
「当たり」
 へらっと笑う女のオレンジの髪に、大きな三角の狐色の、要するにおそらくやっぱり狐のものであろう、獣耳。
 腰からは、狐色の尾が、
「……それ何本あるんだ」
「九本」
 何故か九本も生えている。
「………明日着るって?」
「イースターバニーならぬイースターフォックスで」

 血縁ではなく、友人でもなく、腐れ縁と呼ぶには付き合いのまだ短い、政宗の同居人。
 二人が住むのは洋菓子店“circle cross”の二階で、政宗は店のパティシエであり、佐助がギャルソン姿で店を手伝う時には仕事仲間ということにもなるが。

「アンタ、荷物まとめて出てけ」
「伊達ちゃん酷い!」

 ひょっとすると今日で終わるかもしれない、そんな関係なのだった。





 2.苺の憂鬱


 真田幸村は酷く物憂げな顔で、商店街の一本裏の道を歩いていた。
(政宗殿が店におられなければ良いのだが)
 しかしそれが儚い願いであることは、幸村は重々承知している。
「きっと政宗殿は今頃、明日店に出す菓子の下ごしらえをされているのであろうな」
 二十をそこそこ越えた年若い娘でありながら、菓子の研究や店の管理に日々没頭している姿は、幸村の尊敬と「負けてはいられぬ」という熱意を呼び起こすものだった。
 そんな政宗にだからこそ今日は会いたくない、しかし必ず店にいる。それでこそ政宗殿!と思う幸村なのだから仕方のない話だった。
 幸村は馬沙羅通り商店街にある、小さくも老舗の和菓子屋の次女である。
 跡継ぎではないが、甘味に対する燃え滾る思いは誰にも負けないと本人も自負しており――その調子で団子を焦がしたりお勝手で小火を起こしかけたりしたのは幼いころの事だけだったと思いたい、そう関係者は語る。若干十八歳。
「あれは一応、義さんに任された店だしね」
 三歩先で、幸村より頭一つ高い場所にあるポニーテールが跳ねて揺れた。
「政としては頑張って繁盛させたいんだよ」
 ちらりと振り返って幸村を見る顔は、姉御肌の彼女らしく快活で頼もしい。
――その頭に、白ウサギの耳さえ揺れていなければ。
「慶次殿、もう少し離れて歩いてはいただけぬか」
 春物のコートのフードを目深にかぶり、幸村は戦場にいるような緊張した面持ちでそう告げた。
 本人は戦場のつもりであっても見る者がいればただの不審な娘である。
 幸い人通りは少なく、この近所の人間は商店街の看板娘たちが多少奇矯な格好をしていても気に留めないのが常ではあるが。
「困ったお嬢ちゃんだよ」
 慶次は大きなショルダーバッグを負う肩をすくめた。
 春どころか初夏めいてきた四月の末に、ロングコートの釦をきっちり閉じて白いウサギ耳つきのカチューシャを付けている自分の姿に関しては、都合よく忘れているらしい――





 3.クリームチーズの誤算


「いや慶子さんに頼んだらね、ウサギもいいけど狐も作れるよ!って盛り上がっちゃって」
 蝶ネクタイを締め上げられながら佐助は柔く笑った。
 目の前には、白いコック服とチョコレート色の髪。襟足にかかるほどの長さのショートカットを青いバンダナできっちり纏め上げて、普段は前髪に隠れる右目の白い眼帯をさらしている。
「Ah-Han?」
 雷のような鮮烈な怒りをひそめつつ、切れ長の左目を鼠を前にした猫のように細める顔は、何とも。
「百歩譲って狐の耳くらい許してやるがな…」
――本当に、無駄に艶やかな娘だと。
 そう思いながら、そろそろ。
「Banny girlのコスプレか?しかも化け狐か?アンタこの店なんだと思ってんだ」
「いや、あの、そろそろ息が出来なくなるかなって思ってる」
 ギブアップ。本気スミマセン。
 両手を上げて見せる狐耳のバニーガール――なるほどややこしい、と胸の内で考える佐助の首が、ふわりと緩められた。
 そのままぺたりと調理場の冷たい床に座り込んで息をついた。チョコレートの香りの空気が美味しい。
(しまったなー…)
 久しぶりに政宗の逆鱗に触れたらしいと、吸った空気をため息にしてしまう。
 佐助がこの店に転がり込んだのは一年と少し前。
 それよりもっとずっと前から住み込みで働いていたらしいパティシエの方は、尊敬する師の店だった――政宗が言うには今も彼女のものであるこの洋菓子店を、こよなく大切な預かり物だと思っているのだ。
 だから、
『明日はこれでウェイトレスやるよ』
 というのはまあ冗談半分だったのだが。
 ここでそれを言ってしまうと、冗談半分の“残りの半分”が不意になってしまう。首を絞められてもNOとは言わなかった――しばらくは言わなかった努力が、水の泡だ。
 どうしたものかと目を床に落とした佐助の、頬の辺りに、ふと手が添えられた。
 毎日鍛えられ見た目にはゴツゴツしいほどなのに、繊細で甘やかな菓子を生み出す職人の手。
 促されて顔を上げると、バツの悪そうな左目と視線が合う。
「…真面目に店のこと考えてくれてるなら、悪かった」
 ごめん、店のことは考えてないです。
 とは佐助は口にしなかった。する方がおかしい。
(だって、だって、だってさあ、)
 怒れば凄みばかり見せるきれいな女の子が、床に膝を着いて肩を落としている。
――何だか、しゅんと伏せられた何かの獣の耳が見えてきた。
「だ、」
 標準以上の握力を持つ職人の無意識の締め技ではなくて、佐助は職人本人に敗北した。

「伊達ちゃん、可愛い!」
「What!?」

 佐助がチョコレートの香りに抱きついたのと、扉が開いたのはほとんど同時のこと。

「…破廉恥でござる!」

 勝手口を勝手に開いた慶次の横で、百年前から抱き合っていた二人を見つけたように叫んだのは、真田の幸村嬢であった。





 4.檸檬カスタードの思惑


――しかし、叫ばれてなお狐娘は抱きついたままなのだから、破廉恥上等の心意気なのやもしれない。
「見せ付けるねえ」
 慶次はドアノブを握ったままニンマリと笑った。
「あ、慶子さん…とゆっきー」
「Oh,お前らか」
 抱きつく狐と抱きつかれるパティシエに動揺の色はない。
 慶子さん、と呼ばれた前田慶次嬢はひらひらと手を振って見せた。
――この呼び方はあだ名であって、慶次の本名がケイコなのだとかいうことでは無い。
 幸村も本名がユキコなのだとか、佐助は本名がサヤなのだとか、政宗の本名が実はマサミなのだとか、そんな秘話も存在しない。
 彼女らは自分と同じく何故か男名を持たされた、しかしごく普通の女子であると、慶次は知っていた。
「佐助ェエ!そのようなふしだらな姿で政宗殿に抱きつくなど、例え天地が許してもこの真田源次郎幸村が許さぬぞ!!」
「真田のお嬢、鼻血でてるよ」
(うん、いや、揃って変わり者なんだけどね)
 長い細い生腕にパティシエをがっちりホールドしたままもう片腕を伸ばし、幸村の余り余った血が鼻からオフホワイトのコートに落ちる前にティッシュで止めるという器用な技を見せる橙頭も、普段は結構な常識人ではあるのだが。
「その格好じゃなあ」
 肩をすくめる慶次にチラリ、と視線を向けたのは、佐助の腕の中の一つ目だった。
「And then?あんたも相当にfannyな格好に見えるがな」
 呆れた色の目はポニーテールの白ウサギが、橙の狐とともに此度の首謀者だと知っているらしい。
「April foolには遅いぜ?まつさん達には何て言って来たんだよ」
 しかし吊り上げられた柔らか気な唇は、紡ぐ言葉も柔らかかった。
(どうやって懐柔したんだか)
 橙色を目の端に、慶次はコートの釦に手をかける。
「利にはもちろん、明日は政宗の店で祭りだよーって言ってきたさ」
 が、フードを被ったまま鼻を押さえた娘は空いた手をぴしり、断るように立てた。
「まつ殿には内緒で出てきたのでござる」
 世話になっている親戚の定食屋の夫妻は商店街でも評判の、絵に描いたような鴛夫婦だ。
「まあバレるのも時間の問題かな」
「Ah…そりゃ、見せられねぇな」
 予想はしていたのだろう、コートの下の格好に政宗は左目を覆った。
 胸元も露わなボディスーツは佐助と違って白い色で、白の大きな尻尾と編タイツ、襟には濃いピンク色の蝶ネクタイ。
 正真正銘のバニーガールである。
「見つからないように作るの苦労したよ」
 体型にぴったり合わせて針金を縫いこんで――何しろ自分も佐助も胸は落ちるほどある――夜なべして獣耳を作ったのだ。
――その辺のショップで売っているようなパーティーグッズでは駄目で、何故そんな努力をしたかと問われれば答えは一つ。
「その熱意を別方向に燃やせ」
 ハア、とため息なぞついて、それからまじまじとコートを羽織ったままの慶次を見る視線。
「しかしまあ……Fashion modelになれるな、あんたは」
 猫に似た目を細めて笑う、審美の辛い彼女のその御眼鏡にかなうためである。
 慶次は照れるでもなく、政宗の表情に満ち足りた気分になって、えへっと笑った。
 満たされない顔をしたのはオレンジ髪の狐娘だ。
「伊達ちゃーん?後ろ後ろ」
 きゅう、とパティシエを抱きすくめて頬をつつく。
 政宗は左目を明後日の方に向けて振り返ろうともしなかった。
「佐助はなあ…背丈は慶次と似たようなもんでも猫背だし、尻が貧相だし」
「酷い!このごろ流行の女の子なのに!」
 叫びながらちゃっかり政宗を抱きしめる狐耳のバニー――フォクシーガールを尻目に、慶次は洗い場に立ってハンカチを濡らす。
「それ実際、何年前の歌になるんだっけ?」
「知らないでござる」
 側にしゃがみこんで問うたためだろう、鼻を押さえたくぐもった声で幸村が答えた。
「血は止まったかい?」
「うむ」
――驚きの回復力。
 心中つぶやきながら、ティッシュを離した顔に僅かについた血をハンカチで拭ってやる。大抵は佐助の役回りだったりするのだが、彼女は今辛口の娘を愛でるのに忙しいらしい。
「よしオッケー。さ、幸村、出番だよ!」
「出番、でござるか」
 グッと良い笑顔で親指を立ててみせる慶次に、幸村は被ったフードの端をおさえて僅かに身を引いた。
「ほらほら、そんなにぎゅぎゅう押さえ込んでちゃせっかくの耳がつぶれちゃうよ?」
 と、弾かれたようにオフホワイトの頭が跳ねる。
「耳ではない!」
「耳のつもりなんだけどなあ」
「違うのでござる!これは新種の鉢巻きなのでござる!!」
 ぶんぶんと頭を振るその肩に、慶次は軽く手をかけた。
「鉢巻きなら良いじゃん」
「ぬおあ!?」
 そしてあっさりと、コートを剥ぎ取った。
「…Wow,」
 騒ぎに向けられていた政宗の左目が、軽く見開かれて光をのせる。
 茶色い短い髪に、赤いスカーフを絞ったような長いリボンが二本、ウサギの耳に似て立っていた。
 生クリームのような白いノースリーブシャツにも緋色のネクタイが締められて、白いショートパンツの腰にウサギの尾のような赤い飾りがついている。
 少女のコートを手に得意げな慶次の横で、赤い耳の兎は敗者の態で床に膝を着いた。
「無念でござる…食い倒れ勝負の結果とは言え……無念でござる…!」
「何やってんだお前ら。いや、well…」
 するり、と政宗の体が佐助の腕からすり抜けて幸村に近づき。
「ショートケーキみてぇだな、真田」
 可愛い。
 甘い物を前にしたような顔で、ふわりと笑った。
「政宗殿…!」
 顔を上げた幸村がガッとその手を握り締める。背中で細い髪の束が揺れた。
「騙されてはなりませぬ!今の政宗殿は腐った林檎を見せられた後で傷んだ林檎を見せられたような目の錯覚を起こされているのでござる!!」
「ちょ、誰が腐った林檎ですか真田のお嬢」
 引きつった笑いの下に相当な苛立ちがこめられているようで、狐の九尾に妖気が漂う。
 もちろんそれも作り物なのだが。
「政宗のために頑張って綿詰めたのにね」
 慶次は橙色の尻尾に同情のまなざしを向けた。
「そうだよ!伊達ちゃんのためのもふもふだよ!!」
 その一本をつかんでもふもふと叩く狐娘はさておいて、バニーガールは肩にかかった鞄を下ろす。
「そんでこっちが、政宗のための衣装です」
 中から取り出したるは黒いボディスーツと、青い蝶ネクタイと――猫の耳と尻尾。
「だからそりゃ…Easter bannyじゃねぇだろーが!」
 振り向いた政宗がギョッとしたように声を上げた。
 それから、ため息を一つ。
「百歩譲ってbannyだとしても、この店でその格好は俺が認めねぇ」
 えー、と慶次は不満げな声で腰に手を当てて見せた。
 予想された答えではある。
 これが内輪のお祭りなら猫耳でも兎耳でも勝手に付けろ、と言いそうな政宗だが――店のことになれば話は別だ。
「どうであろう、義殿に聞いてみては」
 だから、幸村のこの提案は、慶次から言い出そうとしていたことだった。
――政宗の隣の狐娘に頼まれたのだ。
『伊達ちゃんさあ、あの人がいなくなってからちょっと元気ないんだよね。甘えれば良いのに何でも自分で抱え込む性質だし――
 腕を組んでそう言った佐助の方こそ、テンションの低い様子だったなあ、と慶次はそちらに目をやる。
 オレンジ頭はへらりと笑って返してきた。
「某は勝負に負けたゆえ、明日は一日この姿でいる約束…」
 クッと拳を握る幸村は本心から言っているに違いない。
「しかし店のこと、義殿ならこの不埒な者どもを諌めて下さるのではありませぬか?」
 片手は政宗の手を握ったままで、真剣さが伝わるのだろうか。
「婆ちゃんに…?」
 戸惑った顔で、左目がチラリと部屋の隅の携帯電話に走った。





 5.丸十の返答 


 青い空、雲は固めに泡立てられたクリームのようだった。
 こちらよりも夏めいて見える空を背景に、彼女は日に焼けた姿で大きな手に負けじと太い芋の蔓をつかんでいる。
 恰幅のいい体の野良着は見慣れないものだったが、白い髪の手ぬぐいと笑う顔は変わらない。
 写真に添えられたのは一言。
『よかよ』

 良いよ。という返事のみである。
「……」
「義さん、写メなんか使えるんだねえ…」
「お元気そうで何よりでござる」
「ほらねー伊達ちゃん、メールしてみるもんでしょ?」
 彼女から店を引き継いだ政宗に残されたのは、鹿児島の芋畑の住所。それから買ったばかりの携帯電話の番号とアドレス。
 去年の春まで馬沙羅通り商店街の南の端のこの店は『丸十』という名前だった。

 島津義弘の、日に限定五十個のスイートポテトが看板商品だった。

「義殿の芋菓子は美味であった」
「でかかったよね、あれ」
「まつ姉と濃さんなんかは切り分けて茶菓子にしてたよ」
 政宗のように創作菓子を次々と考えるのではなくて、数ある洋菓子からスイートポテト一本に絞って極めた師だ。
『おまはんは好きな菓子を作りんしゃい』
 そう言って、ある日故郷の芋畑に帰ってしまった。
「Ah,yes…元気そうだな」
 左目を細めて、政宗は手の中の写真に小さく頷く。
「じゃあ、明日はこっちもせいぜい盛り上がるか」
 ぽつりと呟かれた言葉に、慶次がパアと顔を輝かせた。
「良いの!?」
「耳と尻尾だけな。慶次と幸村の服は――よし、幸村はその格好で来い」
「…!承知つかまつった」
「慶次は佐助の使ってる服で替えのが入るだろ」
 サクサクと指示を出して、ふとオレンジ色に振り返る。
――Hey,何ニヤニヤしてやがる」
「いやあ、調子出てきたなーと思って」
 俺様は嬉しいよ、と佐助は政宗の頭に手を置いて、カチューシャの猫耳ごとくしゃりと掻き回した。



 同じ頃、遠い南の芋畑で。
 奇妙な頭飾りをつけた、四人の若い娘の写真に――黒い猫耳をつけたパティシエに、カラカラと笑う島津の婆さまの姿があったという。



 復活祭の前日の話。
















イースターバニーやってみました。お付き合いいただきありがとうございました!
イースター企画部屋→